ちょっと展開が強引では?~『アンモナイトの目覚め』

 『アンモナイトの目覚め』を見てきた。実在の人物である19世紀の古生物学者メアリー・アニング(ケイト・ウィンスレット)と、やはり実在の人物で地質学者だったシャーロット・マーチソン(サーシャ・ローナン)のロマンスを描いた作品である。監督は『ゴッズ・オウン・カントリー』のフランシス・リーがつとめている。

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 ライム・リージスで化石や貝殻を集めて観光客に売る仕事をしている古生物学者のメアリーは、ひょんなことから地質学者であるロデリック・マーチソン(ジェームズ・マッカードル)の妻シャーロットの面倒をみることになる。熱病にかかったシャーロットの看病をきっかけに2人は親しくなり、やがて愛し合うようになる。しかしながらシャーロットは夫ロデリックのもとに戻らねばならず…

 主演2人の演技や、海をとらえた撮影の綺麗さについては文句がないのだが、展開じたいはけっこう強引だと思った。メアリーがシャーロットと恋に落ちるまでの顛末にちょっと無理があり、全体的に男性がわがままに振る舞うせいで女性同士が逃げるように恋に落ちてしまうというような印象を受けてしまう。まず、メアリーとシャーロットの出会いはロデリックがお金を払って妻の世話をメアリーに押しつけたからで、2人は男性のせいで一緒に過ごすようになった。さらにシャーロットの看病についても、メアリーが医者のリーバーソン先生(アレック・セカレアヌ)に押しつけられたのがきっかけである。さらにシャーロットは夫のせいでメアリーと離れてロンドンに戻らなければならないということで、この作品における出来事のきっかけはたいてい男性が作っており、2人のヒロインが主体的に行動して事態が変わるようなところがあんまりない(これはこのへんのレビューでも指摘されていることで、やっぱり『燃ゆる女の肖像』と比較するとけっこう台本の洗練度が低いような気がしてしまう)。

 あと、もうひとつ気になったのは、地質学や化石に関する専門知識はかなりあったはずのシャーロット・マーチソン(オクスフォード伝記事典にのってるくらいで、私の母校の科学記事でも紹介されており、無名の素人ではない)があまりにも世間知らずに描かれているような気がするというところだ。この映画ではシャーロットは化石好きの夫にふりまわされて鬱気味の気の毒な若妻みたいな感じで出てくるが、実際はシャーロット自身がかなりの教養人で年ももっと上だし、フラフラしていた夫ロデリックを研究の道に導いた原動力だったらしい。夫同様、化石や地質にはとても詳しく、メアリーとは研究仲間みたいな感じだったようだ。それだけ学問に対する情熱があり、フィールド調査の重要性も理解しているであろうシャーロットが、最後でメアリーに対してあんな行動をとるかな…とちょっと疑問に思う。2人が恋人同士だったということについては史実の裏付けがないらしいし、こういうちょっと強引なロマンスものにするくらいなら、結婚して研究を続けるシャーロットと、独身主義のメアリーが立場は違っても女性の学者として強い友情で結ばれる、みたいな話にしたほうがむしろよかったのでは…と思った。