やすらがない森~『やすらぎの森』(試写、ネタバレ注意)

 フレンチカナダの映画『やすらぎの森』をオンライン試写で見た。

yasuragi.espace-sarou.com

 舞台はケベック州の森である。森の奥で3人の年老いた男性であるテッド(ケネス・ウェルシュ)、トム(レミージラール)、チャーリー(ジルベール・スィコット)が世捨て人のように隠棲していたが、ある日テッドが亡くなってしまう。そこに3人に物資を運んでいた若者スティーヴ(エリック・ロビドゥー)が年老いたおばのジェルトルード(アンドレ・ラシャペル)を連れてきて、マリー・デネージュと改名したジェルトルードは森で暮らすことになる。

 『やすらぎの森』という日本語タイトルがついているが、あまりやすらがない話である。静かなタッチの映画だがかなり内容はダークで、精神病の患者や女性の虐待、病気を抱えている高齢者の性愛、安楽死、山火事による住環境の破壊、災害が地域に与えるトラウマなど、重めのテーマを真面目に扱っている。ジェルトルード/マリー・デネージュは若い頃に精神疾患を理由に療養所に閉じ込められ、スティーヴの助けで施設から逃げるように森にやってきて改名し、新しい生活を始めるという展開で、ちょっと『エアスイミング』にも似ている。全体的にしみじみした雰囲気で映像も美しく、犬も可愛いし(ただし犬好きにはすすめない)、過去の山火事と現在の山火事がつながる構成も巧みである。役者陣の演技もとてもしっかりしている。ただ、ジェルトルード/マリー・デネージュについて、メンタルヘルスの問題と鋭敏なセンスが結びつけられているような描写はちょっと引っかかるところもあった。

 災害がコミュニティや人々に及ぼすトラウマを静かなタッチで描くというところはちょっと同じカナダのアトム・エゴヤンを思わせるところがあると思った。エゴヤンほど奇抜な設定を使っているわけではないが、それでも森の世捨て人というのは北米ではたぶんロマンティシズムをかき立てるものなのだと思う。火事がプロット上重要だというところや、なんとなく閉じた雰囲気などは『百合の伝説 シモンとヴァリエ』もちょっと思い出すところがあった。