怪談パブ劇~The Weir (配信、ネタバレあり)

 コナー・マクファーソンのThe Weirを有料配信で見た。キアラン・オライリーの演出で、既にライヴ上演の経験があるプロダクションを撮り直したものである。先日『詩人かたぎ』を配信していたアイリッシュレパートリーシアターによる上演で、そちらと同様、ソーシャルディスタンシングのため完全別撮りである。

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 舞台はアイルランドの地方のパブで、ブレンダン(ティム・ラディ)のパブが舞台である。常連のジャック(ダン・バトラー)とジム(ジョン・キーティング)が来ており、少し遅れてフィンバー(ショーン・ゴームリー)が最近引っ越してきたヴァレリー(アマンダ・クエイド)を連れてくる。ヴァレリーにイイとこを見せたい男たちがいろいろ妖精やら幽霊やらの怪談を始めるのだが、続いてヴァレリーが披露したお話は自分の経験に基づく深刻なもので、雰囲気が一変する。

 台本はかなり暗くて深刻な内容で、最初は話し上手な男たちが酒を飲んでイキりながら盛り気味の怪談をするみたいなちょっとコミカルな展開なのに、だんだん怪談の気味悪さが増していく上、ヴァレリーの話はシャレにならない深い喪失のお話で男たちがちょっとしおれてしまって…というような様子を丁寧に描いている。ヴァレリーがワインを頼むとめったにそういう注文がないブレンダンがちょっとまごまごしたり、みんなお酒が入るとだんだん話がなめらかになったり、描写の行き届いたパブ劇だ。幽霊や妖精などのお話の単に「面白い」社交ツールとしての要素と、人が人生でつらいことに対処するためにそういう話を必要とすることがあるんだという深刻な要素の両方を提示している作品である。昔話などが盛んなアイルランドの文化がよく出ている芝居と言えると思う。

 ただ、役者陣は頑張っているし、編集もとてもうまくつないでいるのだが、これは実際に全員が同じ場所にいる上演で見てみたいと思った。ほとんどひとりひとりの役者のクロースアップで撮っているのだが、何しろ密室的なパブ劇なので、もうちょっと引きで人々がいろいろなやりとりするところを見たいと思うところが多い。日本でも2000年に上演されたことがあるらしいのだが、是非一度ライヴで見てみたいと思った。