対策についてもっと取材すべきでは?『SNS-少女たちの10日間』

 『SNS-少女たちの10日間』を見た。大変話題になっているチェコのドキュメンタリーである。

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 12歳くらいに見える若作りな大人の女優3人を雇い、リアルな子供部屋のセットを作って子供としてSNSに登録してもらい、どのくらい下心のある大人たちがコンタクトしてくるかを調べるというドキュメンタリーである。コンタクトしてくる大人たち(ほとんど男性)については、目と口だけが見えるようにしたぼかしが顔にかかっていて、一応プライバシーを守るようにしているが、このマスクみたいな隠し方が余計不気味さを醸し出してもいる。もちろんカウンセラーとか性科学者、弁護士などと事前に相談し、出演者にもかなりつらい仕事だということを説明してやっている。しかしながら登録した瞬間から、子供を性的に利用することしか考えていないような悪質な成人男性が大挙して女性陣にコンタクトしてきて、思ったよりもだいぶひどいことになる。

 試みとしては野心的だし、良い動機に基づいたものだとは思う。子供がネット社会でさらされる嫌がらせのひどさをリアルに調査するものとして価値はある。しかしながら正直なところ、大人たちが浴びせる性的虐待や脅迫の内容がひどすぎる上に頻繁すぎて、見ている途中でちょっとスタッフたち、とくに女優さんのことが心配になってきた。もちろん適宜カウンセリング的なことを行ってやっているし、事前に出演者はかなりしっかり説明を受け、コンセプトに賛同して善意と闘志をもって参加しているのだが、最後に出演者がまだ悪夢を見ることがあると言っていて、やっぱりこんなにつらいことを役者にやらせるのはあんまり良くはないのではと思ってしまった。

 そしてたぶん、監督も含めて取材の過程で経験したことがひどすぎてみんなちょっとバランス感覚を失っているのではないかと思うところがある。途中でひとりだけ、性的なことを全くせず、常識的なことしか言わない若い男性が出てきて、まるでこの人が英雄みたいに称賛されているのだが、12歳の少女にネットで電話をかけてくる成人男性という時点で既にちょっとおかしいように思う。しかしながらスタッフ全員がひどいことにさらされ続けたせいで、「この人だってけっこう非常識なのでは」みたいな考えが働かない。ここはもうちょっと冷静に編集をすべきだったのではと思った。

 また、女性陣がさらされるひどいことについてはしつこく描いているのだが、対策として何をすべきなのかとか、心のケアをどうするべきかみたいなことがちょっと手薄である。最後に少し説明があるだけで、どうすれば防げるのかとか、実際に被害にあったりあいかけたりした子供たちのケアはどうすればいいのかとか、そのへんの掘り下げが足りないと思った。これだけだと「こういう悪い場所は怖いんですよー」だけで終わってしまう昔の性教育(+セクスプロイテーション)映画みたいなやつとたいして変わらなくなってしまう。

 しかも、最後に一瞬だけある対策の説明については、ちょっと日本語字幕が不足している。英語のほうでは、子供にSNSを禁じるのでは解決にならないから別の手段をとろうみたいな説明になっているのに、字幕は「禁じるだけでは解決にならない」みたいになっていて、まるでSNSを禁じてさらに何かしろと言っているようにも読める。この映画が言っているのはSNSを禁じても無駄で、プラットフォームのほうで規制をし、保護者も子供とフランクに話せる雰囲気を作ろうというようなことで、SNSに近づけないようにしようということではないと思うので、このへん、日本語字幕はちょっと不親切だと思った。