現代の北イングランドを舞台にした気の利いた翻案~『真面目が肝心』(配信)

 ランカスターのザ・デュークスとハダースフィールドとローレンス・バトリー劇場が作ったオンライン版『真面目が肝心』(配信)を見た。オスカー・ワイルドの人気作をヤスミン・カーンが現代の北イングランドを舞台に翻案したものである。演出はミナ・アンウォーがつとめ、キャストを集めてふつうの演劇っぽく撮ったものにテレビ通話や外の風景などを組み合わせている。

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 舞台は現代のイングランド北部、それもヨークとかリーズとかじゃない、かなり地方の町である。主人公のジャミル(グルジート・シン)は駆け出しの役者で、アーネスト・ノースというハンドルネームで北部イングランドの景色や暮らしをレポートするインスタグラムをやっている。ジャミルのメンターをつとめているスターのアルジー(トム・ディクソン)は、ジャミルには可愛い妹分のサフィナ(ゾーイ・イクバル)がいることを嗅ぎつける。一方でジャミルはベガム夫人(演出家のアンウォー)の娘ガル(ニッキー・パテル)に恋しているが…

 完全に現代の設定で、インスタやらなんやらで目立ちたい若者たちが右往左往するコメディである。メインキャストのかなりの部分は南アジア系で、あと人気ドラァグクイーンのディヴィナ・デ・カンポが前半に少しだけ登場している。若干ワイルドっぽくない下ネタもあるし、また結末なども現代っぽく変わっているのだが、お話じたいは完全に『真面目が肝心』だ。

 全体としてテレビのシットコムみたいな感じなのでかなり好みが分かれそうだと思うのだが、この手のものを見慣れている人なら面白いのではないかと思う(『ハイっ、こちらIT課!』とか『テッド神父』みたいな笑いが苦手な人はかなりダメかもしれないが…)。登場人物がやたらとNando's(イギリスで大人気の南アフリカから来たスパイシーチキンのお店、私も大好き)に行きたがるあたり、たぶん地方都市あるあるなんだろうなーと思った(日本だとロイヤルホストに話題になってる季節のデザートを食べに行くみたいな感じかな?)。原作では家庭教師であるミス・プリズムがライフスタイルグルになっていたりするあたりが可笑しい。

 役者陣はシットコムをワイルド風に誇張したみたいな大げさなお芝居をわざとやっているところもあるが、主人公であるジャミルを演じるシンはとくに上手で、いかにも北部の青年という感じがする。全体としてはフザけた話なのだが、ジャミルがスティーヴ・メリマン監督(ポール・チャヒディ)とのオンラインオーディションで南アジアのステレオタイプに基づく変な即興を要求される場面などはブラックユーモアはありつつもけっこう真面目だ。たぶんイギリスで南アジア系の役者とかが経験するようなことを誇張した場面なんだろうな…と思ってしまった。

 ワイルドのオンライン上演では既に『ドリアン・グレイの肖像』も制作されていて、あれもわりと良かったのだが少しスローなところがあると思ったので、個人的にはナンセンスでスピーディでシットコムっぽい『真面目が肝心』のほうが好みである。どちらもSNSで人気になりたいとかいうことがメインの筋になっていて、やっぱり目立ちたい、気の利いたことを言って注目を浴びたい、面白いが正義、みたいなワイルドの世界観というのは21世紀のSNSの世界によく似合うのだろうと思う。かなり好みは分かれるかもしれないが、こういう翻案はどんどんやってほしい。