逆回しで見せる人生の苦痛~『メリリー・ウィー・ロール・アロング』

 スティーブン・ソンドハイムが作詞作曲のミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング』を新国立劇場で見てきた。マリア・フリードマンが演出したものである。初演は1981年だが、その後改訂があったらしい。

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 作曲家でプロデューサーのフランク(平方元基)を中心に、その親友である劇作家チャーリー(ウエンツ瑛士)、小説家・劇評家のメアリー(笹本玲奈)がどんどん仲違いして不幸になっていく様子を、1976年から1957年まで人生のポイントとなる出来事をさかのぼって描くものである。1976年時点でフランクは二番目の妻ガッシー(朝夏まなと)と別れる危機、既にチャーリーとは絶縁、メアリーはいろいろ不調そうだ。表面上はプロデューサーとして成功していても全く幸せではないフランクを主人公とし、ここからどんどんさかのぼってチャーリーとの絶縁のきっかけとか、最初の妻ベス(昆夏美)との離婚などを描き、そしてフランクとチャーリーがメアリーと出会ったきっかけである1957年のスプートニク観測イベントに戻る。

 美術や演出などはフリードマン英語圏で既にやった版からあまり変わっていないらしい。真ん中に家があるセットで、この家がいろいろモデルチェンジしてロサンゼルスのフランクの家になったり、家庭裁判所になったり、ニューヨーク時代のフランクの家になったりする。家の上に草が生えた屋根だかなんだかわからない構造があるのだが、この上階部分は演出として必要なのかどうかちょっとよくわからなかった。最後の場面では家だったはずのこの空間がアパートの屋上になる。

 非常に面白い作品ではあったし、また見たいとも思うのだが、そうは言ってもとにかく大変につらい話である。結末がえらいことになるのをわかっていてどんどん若くて希望にあふれていた時代にさかのぼるので、見ていて厳しいことこの上ない。スプートニクを観測しながら無限の可能性を感じる若き3人が出てくる最後の場面は、天を見上げる明るい場面であるにもかかわらず、先を知っている観客のほうとしては地獄を見ているようなキツさである。構造も複雑だが音楽もけっこう複雑で、それぞれの場面にはよく合ってはいるのだが、微妙な心境とか迷いなどを表現した難しく、歌いにくそうなサウンドが多い。たぶん上演がかなり難しい部類に入る舞台だと思うのだが、役者陣はみんなしっかりやっていた。主演の3人はもちろん、ベス役の昆夏美も主役たちに引けを取らない活躍をする。一見、悪役風のガッシーが意外とちゃんとしたキャラクターなのも良い。

 ただ、70年代の限界なのか、メアリーのキャラクター作りはフランクとチャーリーに比べるとやや類型的なところがあるかもしれないと思う。フランクは極めてきちんと描かれている主役だし、チャーリーはフランクとは仲違いしたかもしれないが、おそらく今は書きたいものを書き、子供たちを育てて落ち着いて暮らしているのではないかと思われるので、ひょっとしたらこの作品の中では一番、人生をうまく生き抜けたのかもしれない。しかしながら最後のメアリーはもうたいしたものが書けなくなってうらぶれている感じだし、どうもフランクが好きだったらしいとかいうあたりもちょっとセンチメンタルだと思う。あの後のメアリーがフランクを断ち切ってまたすごいものを書くところが見たい。