すごい技術を使った上演~舞台版『運命を分けたザイル』(配信、ネタバレあり)

 ブリストル・オールド・ヴィックの舞台『運命を分けたザイル』を有料配信で見た。原作はジョー・シンプソン『死のクレバス―アンデス氷壁の遭難』で、これは実際に起こったアンデスでの登山中の遭難を扱ったノンフィクションで、既に『運命を分けたザイル』として映画化されている。このお芝居はデイヴィッド・グレイグによる翻案で、2018年初演である。

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 映画などとはだいぶ話が違い、なんと亡くなったジョー・シンプソン(ジョシュ・ウィリアムズ)のお通夜で姉妹のサラ(フィオナ・ハンプトン)が遭難の様子を聞くという枠に入っている。ところが、それじたいがどうも遭難中のジョーの幻覚というか悪夢のようなものらしくて、最後にジョーはちゃんと生還する。ちょっとビックリするような変更だが、サラははっきりした性格である一方、全く登山のことを知らないという設定である。このおかげで、耳慣れない登山用語とかを劇中の人物がサラに説明するというていで観客に説明できるようになっている。

 とにかく見せ方が上手で、技術的にいろいろとすごいことをやっている。舞台が一瞬で垂直の崖に変わるような演出はまさに舞台のマジックだと思った。また、雪で覆われた山については、組み立てた枠に破れる紙みたいなものを張ったもので表現していて、それをジョーとサイモン(アンガス・イェロウリーズ)が登るというやり方で見せている。これはかなり体重ののせ方がふつうの舞台と違うものになるだろうと思うので、役者としてはとても大変だろうと思った。こういうセットをうまく使って非常にスリリングな作品に仕上げている。

 ただ、ちょっと残念なのは、けっこう暗い場面が多くて、映像で見やすい舞台ではないということだ。撮影は悪くはないのだが、やっぱりこういうのはライヴで見たほうがいいと思う。そのうち日本で上演しないのだろうか…