かなり盛りだくさんな娯楽映画~『ローズメイカー 奇跡のバラ』(ネタバレ多数)

 『ローズメイカー 奇跡のバラ』を見てきた。

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 ヒロインであるエヴ・ヴェルネ(カトリーヌ・フロ)は父から譲られたバラ園を経営しているが、最近は大企業であるラマルゼル社にコンテストの上位をさらわれ、倒産の危機に瀕している。職員も正規賃金で雇えず、助手のヴェラ(オリヴィア・コート)が職業訓練という名目で安く雇った(たぶん補助金が出るんだと思う)非行少年のフレッド(メラン・オメルタ)、中年失業者のサミール(ファツァー・ブヤメッド)、やたらシャイで精神不安定気味なナデージュ(マリー・プショー)にエヴが仕事を教えてなんとかバラ園継続を目指す。エヴはフレッドが泥棒だったことを生かして一発逆転を狙うが…

 予告から想像するのはつぶれそうなバラ園を建て直す感動作だが、実際はかなり変な人たちが右往左往する娯楽作である。フレッド、サミール、ナデージュはなかなか社会に適応できていないトラブルを抱えているのだが、バラ以外のことについてはまったく常識がなくてしょっちゅう暴走するエヴのほうがだいぶ変人で、そのせいでむしろなだめるほうに回った3人がそのおかげでどんどん職業的な技術を身につけてしまう…みたいな展開だ。大企業と戦う個人営業主で感じのいいカトリーヌ・フロが演じているから不愉快な人に見えないだけで、この映画に出てくるエヴはけっこう問題のある上司である。3人の新入職員に泥棒を手伝わせようとしたり、ヴェラの貯金でバラ園を助けてもらう気満々であったりするところはちょっといい加減にしろと思うのだが、エヴのパワフルなペースにみんなが巻き込まれてしまう。冒頭はラマルゼル社から企業秘密を盗み出す犯罪もの、中盤は非行少年が新しい職場で受け入れられて人生を立て直す明るめのケン・ローチみたいな社会派ヒューマンドラマ(中盤はかなり『天使の分け前』に似ている)、終盤は何もかも失ったエヴが一発逆転するお仕事ドラマ(ここはちょっと『グレイテスト・ショーマン』に似てる)ということで、綺麗なバラも山ほど出てきて映像がそもそも魅力的だし、わりと盛りだくさんな娯楽映画だ。

 エヴはかなりの問題人物なのだが、落とし方であんまりイヤな感じにならないよう工夫している。最後のコンクールで勝利したエヴが新作のバラは全部新人たちの功績だと述べてお礼を言うあたりから、エヴが今まであまりなかった謙遜と協調を学んで精神的に成長したことがわかる。また、クライマックスのコンクールの前にフレッドが新しい道を見つけて修行のためにパリに出て行くあたりが「我が道を行く」ことを大事にするフランス映画らしい。