よくできてはいるが…『プロミシング・ヤング・ウーマン』(配信、ネタバレあり)

 『プロミシング・ヤング・ウーマン』をオンライン試写で見た。

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 キャシー(キャリー・マリガン)は医学部を退学し、コーヒーショップで働きながら夜になると酔っ払った女性に性暴力を働こうとしようとする男たちをこらしめることに精を出していた。実はキャシーの親友だったニーナは大学で酔って衆人環視の中レイプされ、訴えたのに握りつぶされて自殺していた。この過去から立ち直れず苦しんでいるキャシーだが、そこにかつての医学部のクラスメイトだったライアン(ボー・バーナム)が現れる。

 全体的にとてもよく考えた脚本だし、キャリー・マリガンやキャシーが勤めている店のマネージャーで友達であるゲイルを演じるラヴァーン・コックス、ちょっとだけ出てくるアルフレッド・モリーナなどの演技もすごくいい。ピンクを中心に揃えたヴィジュアルも気が利いている。しかしながら、個人的にかなり受け入れられないところがあった。

 まず、この作品には実際の被害者で亡くなってしまったニーナの主体性というものが全然ない。これはそういう話ではなくてキャシーの話だということなのだろうが、結局のところニーナがどういう人で何を望んでいたのかとかが全然わからず、キャシーのニーナに対する思いが一方的に流れるだけになってしまっている。家族や恋人がレイプや殺人の被害にあって男性が復讐するみたいな話はけっこうあるのだが、その手の作品の焼き直しの一種なのでは…と思ってしまった。基本的に性暴力に限らず(ホロコーストの映画とかもそうだと思うのだが)、暴力と復讐を描く作品は被害を受けた本人の主体性を中心に構成したほうがいいのではないかと思うのだが、この映画はあんまりそういう工夫をやっていない(ニーナが幽霊になって化けて出るとかいう話だったら私はもっと面白いと思ったかもしれない。あと、このへんは英語圏でもけっこう気にしている人がいたので私だけが引っかかったわけではないようだ)。

 また、これはネタバレなのであんまり詳しく言わないが、ああいうある種の「自殺攻撃」みたいなやり方はちょっとどうなんだろうと思った。映画のプロットとしては面白いが、こういう性差別的で暴力が染みついた社会を描いた作品としてはあまりいただけない。あくまでも趣味の問題だが、女性の自己犠牲を美しく描くみたいな終わり方はどんなコンテクストであろうと見ていて気が滅入るところがある。