野心作だが、ストレートな伝記物にしたほうが…Marys Seacole(配信)

 ジャッキー・シブリーズ・ドラリーのMarys Seacoleをリンカーン・センターの配信で見た。ジャマイカクレオールで、イギリスのためクリミア戦争で看護師として活躍したメアリ・シーコールの物語である。2019年初演のものを撮った映像で、配信の予定はなかったが新型コロナウイルスのせいで配信されることになったらしい。たしかにちょっと音のバランスがおかしく、台詞よりも客席の笑いが大きく入っているような場面もあってたぶん公開用ではなかったんだろうなという気はするが、撮影はそんなに悪くない。

 一応メアリ・シーコール(クインシー・タイラー・バーンスタイン)が自分のことについて説明するところから始まるのだが、その後にいきなり時代が現代になり、白人女性を看護している現代人のメアリが出てくる場面があって、その後また19世紀に戻る。過去と現代、2つの時空があり、さらに他にもMで始まる名前の女性たちが出てくるので、どうもタイトルがMaryではなくMarysになっているのは、メアリ・シーコールが1人ではないかららしい。ふつうの伝記物ではなく、現代のケア労働(多くの非白人女性が担っている)とメアリ・シーコールの人生をダブらせるため、過去と現代を行ったり来たりさせる実験的な構成になっている。

 正直、90分の芝居でこの構成でいいのかはかなり疑問である。この尺ならストレートな伝記物にしてメアリ・シーコールがどういう業績をあげたのか、そしてその活躍にはどういう差別や矛盾がつきまとっているのかということを直線的に描いたほうがいいと思う。こういう構成にするならたぶん2時間半くらいの台本でないと、けっこうとっちらかった感じになってしまう。とくに現代の場面はなんかありがちな冗談とか血糊をいっぱい使った病院の訓練とかが出てくるだけで、別々のエピソードがパラパラ出てくるような感じであまり明確に過去の物語とつながっているように見えない。最後はかなり盛り上がるし女優陣の演技も良いのでつまらないわけではなく、野心作なのだが、いろいろアラはあるように思った。