ツボを押さえた笑える上演~二期会『ファルスタッフ』

 二期会ファルスタッフ』を見てきた。レオナルド・シーニ指揮、演出・衣裳が ロラン・ペリーによる上演である。これまた初日が新型コロナウイルスのせいで中止になって上演できるのか…と思っていたが、無事行われた。

 舞台設定は20世紀(1960-70年代くらいかな)で、かなりセットが凝っている。ファルスタッフ(黒田博)のいる宿の部屋はパースペクティブを使って奥行きがあるように見せており、一方で陽気な女房たちが住んでいるところは大規模な階段を使った可動式で層になっている建造物である。ここを登ったりおりたりしながらアリーチェ(大山亜紀子)とメグ(金澤桃子)が二股をかけようとしたファルスタッフに対する復讐作戦を練る。また、フォード(小森輝彦)の精神状態を反映して突然フォードの人数が増えるなどという風変わりでコミカルな演出がある。セットも衣装もお洒落だし、笑えるところもたくさんある。

 このプロダクションを見て思ったのは、ファルスタッフは本作では勘違い男ではあるのだが、勘違いしてしまうだけの理由はあるくらいイケている中年男ではある、ということである。もともとファルスタッフはわりとモテるはずなのだが(太っているからモテないとかいうのは大いなる勘違いで、あんだけ面白ければなびく女もたくさんいるだろう)、このプロダクションのファルスタッフは声はステキで女を口説くのもそこそこ上手だし、ユーモアのセンスもあるし、おめかしさえすればこれまでけっこう恋愛の点では成功していたと思われる。アリーチェもメグも、二股で同じ文面の手紙を送られたとわかるまでは、受け入れるつもりはなくても別にめちゃくちゃ不愉快だというわけではないようにも見えるので、両方に色気を出していたのがバレなければただすげなく断られるだけで終わっていただろう。二股がバレて、しかも相手の女たちが賢かったというのが色男ファルスタッフの運の尽きだった。最後に年を取り過ぎたと言うファルスタッフは、伊達男が寄る年波を自覚したように見える。