キャストは魅力的だが、やはりつらい~ニュー・グループ・オフ・ステージ『ゴドーを待ちながら』(配信)

 ニュー・グループ・オフ・ステージの『ゴドーを待ちながら』を有料配信で見た。スコット・エリス演出で、イーサン・ホークがウラジーミル、ジョン・レグイザモエストラゴン、ラッキーがウォレス・ショーン、ポッツォがタリク・トロッターという豪華キャストである。全体がZoom画面みたいなビデオ会議で撮影されており、それぞれ自分のアカウントからつないでくるみたいな感じになっている。

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 何しろホークとレグイザモはとても魅力的なディディとゴゴで、知的でスマホをいじったりとかわりとしゃれた感じのディディが愛嬌たっぷりのおとぼけゴゴにツッコンでるみたいな漫才感がある。何しろホークとレグイザモなので、オーソドックスなベケット的やりとりをしてもなんとなく現代風だ。2人(とくにディディ)がけっこう歌ったり踊ったりしてくれるあたりもいい。

 Zoomでベケットをやるというのはコンセプトとしては大変正しいと思う。なにしろベケットの芝居というのは登場人物がきわめて孤独だったり動きが制限されたりしているのが特徴で、『エンドゲーム』や『芝居』みたいに全然動かない人が出てくるものすらある。それと新型コロナウイルスで隔離されている人々の孤独を重ねあわせて…というのは大変よくわかる。しかしながらベケットの中でもまだ『ゴドーを待ちながら』はもうちょっと動きや接触を使った喜劇的要素がある作品なので、それまでZoomで制限されてしまうとけっこう見ていて孤独がひしひしと感じられ、キツい。Zoomというのはベケットの芝居がもともと持っているつらさを最大限に引き出してくれてしまうツールである。途中でディディとゴゴが帽子を交換するあたりは壁がなくなったみたいな印象を受けて一瞬とてもハッピーになったりもするのだが、全体的にはコミカルながらもこの先の見えない感染症流行がいつ終わるのかわからないまま孤独に生きている人々の芝居という感じがする。さらに3時間もあって長いので、余計つらい。