この手のものとしては良くできているほうではあるが…『スーパーノヴァ』

 『スーパーノヴァ』を見てきた。

www.youtube.com

 長年連れ添ったカップルである作家のタスカー(スタンリー・トゥッチ)とピアニストのサム(コリン・ファース)が湖水地方を旅する様子を描いたものである。サムが久しぶりにコンサートを頼まれたからということで愛犬ルビーを連れて車で旅をするのだが、タスカーは実はまだそんな年でもないのに認知症になっていた。2人はコンサートの前にサムの家族を訪問する。

 この手の熟年カップルの病気を描いたものとしてはよくある感じで、トゥッチとファースの演技を見るみたいな映画である。ドナルド・サザーランドヘレン・ミレンが出た『ロング、ロングバケーション』とか、シェイクスピアネタの『43年後のアイ・ラヴ・ユー』とか、いろいろ先行作がある。認知症という点でも『ファーザー』とか『アリスのままで』とか、いろいろ先行作がある。

 熟年カップルの病気ものとしては比較的よくできているほうである。とくにタスカーがサムの家族のところでパーティに出席するところは、みんなある種のタスカーの生前葬だとわかって盛り上げようとしている感じがあり、タスカーがサムの家族からも愛されていることがよくわかるような描き方になっているのが良い(この映画ではタスカーとサムがゲイのカップルだということはサムの家族から完全に当たり前のこととして受け入れられている)。どちらかというと寂しい感じの湖水地方の描写も綺麗だし、犬も可愛いし、最後にファースが自分でピアノを弾いているというのも凄い。

 ただ、短い映画なのにこのパーティあたりまではけっこうテンポがゆっくりであまり発展がなく、そのせいでちょっとタスカーとサムのキャラクターが薄くなっているような気がする。基本的にこの2人はカップルとして以外にあまり人生がないように見え、「なんとなくリッチで知的なカップル」以上の描き方になっていないように思う。せっかく芸術家のカップルなんだし、前半でもう少しこの2人の芸術的なこだわりとかを掘り下げてもよかったと思うし(全くそういう描写がないというわけではないのだが、もっとあっても良い)、他にもいろいろ細かい性格とか人生に関する描写があったほうがよいという気もした。