アフリカの国が舞台の見応えある演出~セントルイスシェイクスピア祭『リア王』(配信)

 セントルイスシェイクスピア祭の『リア王』を配信で見た。演出はカール・コーフィールドによるものである。野外上演を撮影したものである。

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 舞台は北アフリカのどこかの国という設定で、キャストはだいたい非白人である(ただ、設定が北アフリカのわりには美術などがもうちょっと南のほうの雰囲気だ)。アフリカということでドラムをたくさん使っており、最後のエドガー(ダニエル・ホセ・モリーナ)とエドマンド(リーランド・ファウラー)の決闘の場面も合図が原作通りのラッパではなくドラムになっている。舞台の中心に金色の鷲の形の王座があり、王国の不安定化とリアの失墜とともに途中でこれが倒れてしまう。衣服などはかなり現代的で、エドガーなどはフードをかぶってヒップホップやっててもおかしくないような雰囲気の衣装だ。ただ、そういうモダンな衣装に対して、リア王狂乱の場面のボディペインティングなどはやや古めかしい感じなので、あまり雰囲気がマッチしていないかもしれない。ところどころ変わった演出はあるもののわりと正攻法で、とくにリア王を演じるブロードウェイのスターであるアンドレ・ド・シールズの演技をじっくり見せるものになっている。

 正攻法とは言え、暴力的なところは暴力的である。このプロダクションでは道化(アレン・ギルモア)がかなり賢くて細かい気遣いができそうなタイプで、リア王コーデリア(ニコール・キング)のことを思い出して後悔を口に出すところなどではかなりリア王のことを心配しているように見える。ところがこの道化が途中で狂乱して刃物を持って暴れるリア王に刺されてしまうということになり、ここはけっこうショッキングだ(2015年にナショナルシアター・ライヴのバージョンでもリア王が狂乱して道化を殺すので、それに少し似ているかもしれない)。また、リーガン(ジャクリーン・トンプソン)夫妻はやくざ者みたいなガラの悪さで、ドリルのような機械を持ってグロスター(ブライアン・アンソニー・ウィルソン)の目をくりぬこうとしており、ここはけっこう怖い。