ラテン語が読めるロック様とメリー・ポピンズ~『ジャングル・クルーズ』(ネタバレあり)

 『ジャングル・クルーズ』を見てきた。私はディズニーランドのこのアトラクションには乗ったことがないのだが(ディズニーランドが嫌いなので)、おおもとの原作である『アフリカの女王』が大好きなので、去年から楽しみにしていた…のだが、公開延期が続いて、やっと見られたという感じである。

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 舞台は1916年のロンドンで、ヒロインであるリリー(エミリー・ブラント)は優秀な科学者なのに女性だということで学会に入れてもらえず、資料調査をさせてもらえない。仕方がないので弟のマクレガー(ジャック・ホワイトホール)に手伝ってもらって資料をかっぱらい、アマゾンの奥地へ万病を癒やせるという花を探す冒険に出る。アマゾンでは地元の船長であるフランク(ドウェイン・ジョンソン)の船に乗せてもらえることになるが、このフランクはなかなかあやしいところがある上、ドイツの科学者ヨアヒム王子(ジェシー・プレモンス)も花を狙って襲ってくる。

 

 とにかくリリーとフランクの掛け合いの妙と、フランクの愛猫(にしてはデカいが)である賢いジャガーのプロキシマの可愛らしさを楽しむ作品である。エミリー・ブラントとロック様の相性の良さはたいしたもので、古典ロマンティックコメディを彷彿とさせるケミストリ溢れるカップルだ。また、アクション映画の登場人物としても、何しろ元格闘家のアイコニックなアクションスターとメリー・ポピンズが一緒にいるわけで、正直なところ最強のカップルにしか見えず、実に安心感がある(しかも今回のロック様はラテン語が読める!文武両道で最強である)。また、フランクとプロキシマのやりとりも楽しく、アクションの点でももふもふのプロキシマがかなり活躍してくれるのもよい。お話はディズニーのアトラクションがベースというだけあってけっこう「そんなにうまくいくかねぇ…」みたいに思うところもたくさんあるのだが、とにかくネコにモテモテのロック様とエミリー・ブラントを見ているだけで楽しめるアドベンチャー映画だ。

 とはいえ、お話のほうはけっこう緩い。ネタバレになるが、ロック様が異常に長命で不死身だとかいう設定は要るのだろうか…とか、どうせ戦争要素を持ち込むならもうちょっと『アフリカの女王』みたいにストレートな戦争アクションにしたほうがいいのじゃないかとか(呪いに戦争に、盛り込みすぎだと思う)、ツッコむところはたくさんある。『アフリカの女王』は名作なので、比較するほうが間違っているような気もするが…

 ただ、アマゾンが舞台のアドベンチャーにしては、地元の先住民の描き方については人種差別的にならないよう気をつけているようだ(テーマパークアトラクションのほうは差別的だとしょっちゅう言われていて改訂するらしい)。地元の先住民の人たちはフランクと契約してクルーズ船を驚かす仕事を請け負ってるとか、ステレオタイプな人食い人種が出てきたかと思ったらこれもフランクの業務委託(!)によるハッタリだったとか、ちょっと「そういうのって白人が作ったイメージなんですよ」風のメタな味付けになっていて、あんまりイヤな感じがしないようにできるだけフラットに描こうとしている。2016年の『ジャングル・ブック』もそのへんは気をつけていたので、映画の人種差別についてはディズニーはかなり注意しようとしているのかもしれない。

 ただ、ゲイの描写については相変わらずである。リリーの弟のマクレガーはゲイなのだが、カムアウトの仕方が大人にしかわからないような婉曲なもので、あれでは子供はよくわからないだろうと思う。マクレガーはもうちょっと掘り下げればいいキャラになると思うのだが、家族の中で唯一、自分を尊重してくれるリリーにひたすら付き合って振り回されているだけで、ロマンスも自分の物語ももらえない。そろそろディズニーはちゃんとした同性愛のロマンスを実写映画に出してもいいのに…と思う。