短いわりにはツボをおさえた楽しい作品~宝塚宙組公演『シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-』(配信)

 宝塚宙組公演『シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-』を有料配信で見た。生田大和作・演出で、もちろんシャーロック・ホームズものである。作品としてはキャノンにあるいろいろな話、とくにライヘンバッハまわりのエピソードを参考にしているのだが、基本的には切り裂きジャックヴィクトリア女王ゴールデンジュビリーを織り込んだオリジナルのお話である。

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 ホームズ(真風涼帆)がモリアーティ(芹香斗亜)と対決する定番の展開にゴージャスのオペラのスターであるアイリーン(潤花)との情熱的なロマンスも絡めて、歌ありアクションありの楽しい作品である。ホームズはわりと知的で、また昔失った恋人のことを忘れられずに女性に近づけなくなっているという(宝塚的に)ロマンティックで優しめのキャラクターである。モリアーティはスーパーヴィランというよりは芝居がかったトリックスター風に作っていて、少しBBC『シャーロック』に近いと言えるかもしれない。ホームズとモリアーティが、実際には同じ場所にいないはずなのに互いに対するライバル心を剥き出しにして同じ舞台でデュエットするところがあり、これは非常に舞台ミュージカルとしては効果的な演出だ。一方、ワトスン(桜木みなと)とホームズはわりとベタベタしており、自宅で変な悪ノリでふざけるところは最初はちょっと面食らったが、大変笑える。また、いかにも堅気のミドルクラスの女性らしいメアリ(天彩峰里)が、スターで危険な人生を送ってきた雰囲気のアイリーンに対して変に敵意を見せたり逆に気を遣いすぎたりせず、女同士で自然に優しく接している様子がわかる演出があるのは良いと思った。最初から出てきている鎖のモチーフが最後に生きてくるところは小道具の使い方がうまい。

 いくつかちょっと疑問に思うところもある。恋愛重視でやたらロマンティックなのはまあ宝塚だからしょうがないとしよう。冒頭は暗めの照明でヴィクトリア朝のミステリらしいちょっと憂鬱で後ろ暗さ溢れる雰囲気を醸し出しているのだが、最後がなんだかヴィクトリア朝ミステリというよりは最近のやたら複雑なハリウッドアクションみたいになるところはちょっと気になる。とくにあの最後の最後のオチはどうかなーと思った。また、大がかりな話のわりに短くて、もうちょっとじっくり見たいような気もする。

 

 芝居の後にレビュー『Délicieux!-甘美なる巴里』がついているのだが、これはタイトルどおり、アイスクリームなど美味しい食べ物が出てきて、音楽も『くるみ割り人形』など食物ネタのものを使っている。衣装などもちょっとデコレーションしたお菓子っぽい雰囲気のもので、ダンスはカンカンだったりけっこう激しい。モーツァルトに合わせてマカロンの重量挙げをするところは冗談かと思った(かなり笑える)。盛り上がるところでは昔のミュージカルよろしく派手に大きなケーキが回る。しかし、美味しいお菓子となるとまあパリで、芝居の舞台になっていたロンドンはまず出てこないのがなかなか悲しいところだ(宝塚でロンドンネタのレビューってあるのだろうか?)。