面白かったが、映画の枠は一切、要らない~『チェネレントラ』

 新国立劇場で『チェネレントラ』を見てきた。ロッシーニのオペラで、内容は『シンデレラ』である。配信でずいぶん何回も見たがライヴでは初めて見た。演出は粟國淳、指揮は城谷正博である。

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 歌は良く、とくにヒロインのアンジェリーナ(脇園彩)がとても生き生きとしていて良かった。『チェネレントラ』はディズニーのシンデレラなどとは違っていて、ヒロインははっきりした性格だし、おとぎ話であるわりには大人のロマコメといった雰囲気もあると思うのだが、それに合ったヒロインのキャラクターになっている。他のキャラクターも要所要所で歌と笑いで盛り上げてくれて、全体的には面白かった。

 ただ、演出で映画を撮っているという枠があるのは一切、要らなかったと思う。序曲のところで、映画王が残した遺言のせいで息子が結婚しなければならないとか、監督が新人女優を発掘しなければならないとかいう設定が出てきて、そこから『シンデレラ』の新作映画を撮るというていで話が進むのだが、映画を撮っているという設定のはずなのに(驚愕のワンテイク撮影で、ずいぶん前衛的な現場だ)、その撮っている映画の中で映画王の息子が結婚を…とかいう話がまた出てくる。たぶんフェデリコ・フェリーニの『8 1/2』とかを下敷きにしているのだと思うので、虚実とりまぜて…というふうにしたかったのだろうが、単に枠の外と中がごっちゃになっているようにしか見えなくて、あまり設定として効いていない(無理に『NINE』の真似事をしなくてもいいのにと思った)。そもそもこの映画王の息子だという設定自体、要らないと思う…というか、もとのままならおとぎ話だからと言うことで納得できるものが、20世紀の映画制作をかぶせると「これも全部、所詮フィクション、撮影ですよ」みたいな感じになってむしろ虚しくなってしまうのではないかと思った。