今見るとちょっときついところも…『オリバー!』

 東急シアターオーブでミュージカル『オリバー!』を見てきた。チャールズ・ディケンズの有名な小説『オリヴァー・トゥイスト』のミュージカル化である。映画は見たことあるが、舞台で見るのは初めてである。

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 ヴィクトリア朝を舞台に貧しい少年オリバーの波乱の運命を描いた作品である。正直なところ私はディケンズはかなり苦手で『オリヴァー・トゥイスト』もそんなに面白いと思ったことは無いのだが、とはいえ子どもたちが生き生き活躍するよくまとまった作品ではある。ミュージカルは原作をけっこう刈り込んですっきりさせている。

 私が見た回はフェイギンが武田真治、ナンシーがソニンだった。フェイギンはおそらく原作の反ユダヤ主義的なところを減らすため、小説に比べるとずいぶんポジティヴな結末を迎えるようになっている。また、これは武田真治の役作りのおかげもあるのかもしれないが、フェイギンがかなり人間味のあるキャラクターになっている。フェイギンは未成年者を集めて犯罪組織をやっているというとうてい擁護できない人物なのだが、この作品のヴィクトリア朝はあまり子どもたちには優しくなく、救貧院みたいな公的な施設さえ子どもたちをひどく虐待している。そんな中、救貧院の連中みたいに偽善的なことはしない一方、一応は子どもたちがちゃんとごはんを食べているかとか、顔を洗っているかといったことに気を遣っていて、暴力も嫌っているフェイギンは、周りの連中に比べると比較的マシな人として描かれているように思った。サイクスが相当に怖いので、余計フェイギンがちょっと間抜けなところもユーモアもある、まだまだ人間味のある人物に見える。

 一方でサイクスに虐待されていて完全にDV被害者になっているナンシーのキャラクターは、今見るとちょっときついものがある。"As Long As He Needs Me"が最初に歌われるところは、ナンシーが自分を虐待しているサイクスへの情愛を断ち切れず、虐待者に依存してしまっていることがわかる、大変恐ろしい歌である。ナンシーは"Oom-Pah-Pah"のところなどではけっこう陽気で、フェイギンや子どもたち、他の女たちの前ではそんなにしおれておらず、本来は元気な女性なのだと思うのだが、サイクスの前では小さく怯えた女性になってしまう。そんなナンシーがサイクスはおかしいと思ってオリバーを助けようとするのがDVからの脱出第1歩なのだが、サイクスの性格が異常すぎてナンシーは殺されてしまう。完全に孤立しているわけではないのに適切な助けを受けられず、恋人に殺されてしまうナンシーは、ヴィクトリア朝の感覚では更生を試みた末に自己を犠牲にしたかわいそうなヒロインということになるのだろうが、現在の感覚だともうちょっとなんとかならないものかと思ってしまう。

 あと、ミュージカルを見て、"Oom-Pah-Pah" はかなり荒っぽいところや色っぽいところもある歌なんだなと思った。たしかに子どもが主人公の芝居にしては歌詞が大人向けだなとは思っていたのだが、このミュージカルの演出では歌にあわせて面白可笑しくセックスを連想させるような踊りをけっこう強調している。たしかにパブで酔っ払ってみんなで歌う歌ならそうなるだろうなと思うので、このへんの演出は的確なんだろうと思う。