これたぶん『キングスマン』みたいな映画なんじゃないかな…『燃えよ剣』

 『燃えよ剣』を見てきた。言わずと知れた新選組副長土方歳三を主人公とする司馬遼太郎原作の有名小説の映画化である。ずっと公開が延期されていて、ようやく映画館で見られるようになった。

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 一応、全体が土方歳三岡田准一)が箱館でフランスの軍人ブリュネ(ジョナス・ブロケ)に対して自分の人生を回想するという枠に入っており、このためしょっぱなから例の有名な肖像写真に写っているのに似た洋装の軍服の土方が見られる。観客にも馴染みのあるであろう軍装の姿を最初から出し、自分がバラガキだったことを思い出す土方の顔をクロースアップで撮るところから始まっていて、こういうちょっとした工夫によって観客の注意をたちどころに主人公に引きつけ、長い話をできるだけコンパクトにすることを狙っているようだ。原作は大変長い話なのでかなりカットされていてちょっとダイジェスト版みたいになっているが、それでもちゃんと戦死までを描いて完結させている。

 全体的に大変アクションがしっかりしている。岡田准一が自分で殺陣指導までやったそうだが、正直、かけているお金の額が段違いのはずなのに先日見た『DUNE/デューン 砂の惑星』よりも斬り合いの見せ方じたいはシャープである。さらに岡田准一が根っからアクションスターなので、強力な突きを駆使した泥臭い戦い方をしっかり見せ、土方の戦闘スタイルや性格までわかるようなきちんとしたアクションをしており、このあたりは非常に見応えがある。お金をかけるべきところにお金をかけているようだし、かなり見応えがある。

 土方のキャラクターについてはけっこう岡田准一に合わせて良い人になっているように思った。原作にはくやらみ祭で出会ったサエという女が出てきて、女好きの土方はこの女(何しろサエなどという名前の女はろくでもないに決まっているのだが)をわりと真面目に好きになるのだが、後に政治的に袂を分かって…ということになるけっこう面白い展開があるものの、このあたりは全部カットされている。女好き土方のモテモテぶりの描き方も抑え気味で、出てくる恋人は絵師のお雪(柴咲コウ)だけだ。このお雪も柴咲コウが演じているせいで、わりと江戸時代の女性にしては芸術系の不思議ちゃんというような雰囲気になっており、モテモテの土方もなかなかいつもの調子ではいかず、変わり者同士の不器用な純愛みたいな感じになっている。

 本来であれば1シーズンかけてドラマかなんかでやったほうがいいような話ではあるし、土方のワルぶりも若干漂白されてはいるが、新選組の面々をはじめとして脇を固める役者陣もかなり良いし、全体的にはとても楽しめる作品だった。何しろ政治的な流れを読めずに幕府に味方したわけでバッドエンドになるに決まっているのだが、最後どんどん負けがこんでいくあたりもわりと悲惨すぎずにテンポ良くまとめている。侍が時代遅れになる時代に田舎の庶民から作られた伝統としての「侍」になろうとする土方をヒーローとして描くのは政治的にはかなり疑問もあるのだが、まあそこは『キングスマン』みたいな「マナーが人を作る」上昇志向映画の仲間として割り切って見るしかないのだろうなーと思う。