大人向けのおとぎ話~グローブ座『変身物語』

 グローブ座の配信で『変身物語』を見た。屋内劇場であるサム・ワナメイカー・プレイハウスからの配信である。上演開始前に送られてきた配信リンクが間違っていたりして(これは私だけではなく、かなり多数の人のリンクが間違っていた模様…)ちょっと開演が遅れたのだが、とりあえず見ることができた。

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 オウィディウスの『変身物語』からいくつかのお話をとってきて、4名の役者(ステファン・ドネリー、フィオナ・ハンプトン、チャーリー・ジョセフィン、イルファン・シャムジ)がストーリーテリングみたいな簡単な寸劇をするものである。神話からとってきた短い寸劇ということだとまるで子ども向けのおとぎ話みたいだが、内容はフィロメラとプロクネとか、バッカイとか、メデイアとか、かなり血なまぐさく、性暴力や神の怒りなどが出てくる大人向けのものばかりである。下ネタのジョークもあるし、言葉使いもかなりくだけていてFワードも頻出する。完全に大人のおとぎ話である。

 ステージには白い背景にいろいろな小道具類がかかっていて、天地創造のところでは暗かったところにキャンドルをともす演出があり、照明などもけっこう工夫されている。全体的に神と人間、両方の行いの理不尽さを生々しく描いた作品で、またもともとの作品に存在する、神話というにはやたらと実生活に密着した要素をちょっとデフォルメして古代の物語をまるで現代のお話のように提示している。独学で織物技術を身につけたのにやたらとミネルヴァのおかげだと言われてふくれっ面のアラクネーは、自立心が強く孤独な芸術家として描かれており、そんなアラクネーが神の罰を受けるのはとても気の毒に思える。ポイボスとパエトーンのお話は、忙しすぎて息子を放置しすぎた父親が、そのせいでたぶんかなり頑固かつ軽率に育ってしまった息子のお願いを断れず、父親の情のせいで息子に死をもたらしてしまうという、現代人でも十分理解できそうなお話になっている。こういうふうにいろいろな味わいのお話を詰め込んで、非常に人間味のある形で見せている。役者陣もなかなか芸達者で、エネルギッシュな舞台だ。

 ただ、イギリスはまだ新型コロナウイルスが全然おさまっていないというのに、マスクをしていないお客さんがかなりいる。さらにそこで観客に歌を歌わせたり、舞台上でお茶をのんでそれをお客さんにすすめたりする演出がある。これはちょっとビックリしたというか、イギリスはちょっと気を抜きすぎではないかと思った。