エドワード・ボーイズによるマーストンの喜劇~The Fawn(配信)

 英国シェイクスピア協会がオンラインで実施した「イングランドのジャコビアン演劇における変装した公爵」研究会で、ジョン・マーストンの喜劇The Fawn (Parasitaster, or The Fawnというタイトルで知られている)を見た。ストラトフォード・アポン・エイヴォンシェイクスピアが通ったのではないかと言われているキングエドワード6世校で昔からやっているプロジェクトで、男子生徒だけで近世イングランドの少年劇団を模して復活上演を行うエドワード・ボーイズ劇団による上演である。これは変装した公爵が登場する芝居で、今年の9月の上演映像である。

 マーストン作品で変装した公爵が出てくるものとしては、私は一度『不満居士』を見たことがあるのだが、このThe Fawnもちょっと『不満居士』に似た、けっこう複雑で人工的な設定のお話である。主人公であるフェラーラハーキュリーズはフォーン(Fawn)に変装し、ゴンザーガ公か支配しているウルビーノの宮廷にいる息子タイベリオを偵察しに行く。ゴンザーガ公はお世辞にも賢い君主とは言えず、宮廷の風紀はメチャクチャになっており、ハーキュリーズはいろいろ様子をさぐる。一方でゴンザーガ公の娘ダルシメルはタイベリオに恋し、ぼんやりした父親を使って強引にタイベリオに求婚しようとする。

 『戦艦ピナフォア』みたいな船舶ミュージカルっぽいセットで、男性陣は船長や船員みたいな服装をしている。最後に行われるキューピッドの法廷の場面は、船を掃除する船員たちが行うショーのように演出されている。コール・ポーターなどの音楽がふんだんに使われている。毎回そうだが、演じている男子生徒たちの演技は中学生とか高校生くらいとは思えないほど上手で、セリフを大事にしているし、間の取り方などもきちんとしていて笑えるところはちゃんと笑えるし、わりと下ネタもある複雑な話なのに大変上手にやっていて楽しめた。

 ゴンザーガ公の宮廷はジェームズ1世(6世)の宮廷を連想させるように描かれており、おそらく初演時(1600年代半ば)にはかなり厳しい諷刺的な芝居だったと思われる。風紀が乱れた宮廷で自分の意思を通そうとするダルシメルやゾヤはかなり面白い女性キャラクターだ。ただ、『不満居士』に比べると最後がけっこう様式的な感じで、ドラマチックさでは負けるような気がした。