若干のシェイクスピア風味~『カオス・ウォーキング』

 『カオス・ウォーキング』を見た。

cw-movie.jp

 舞台は未来の「ニュー・ワールド」こと地球外の移住惑星である。男性の考えていることは「ノイズ」として外に聞こえるようになり、女性はどういうわけだか1人もいない。この世界で最年少であるトッド(トム・ホランド)が、地球からやってきた移住船の先遣隊の生き残りであるヴァイオラデイジー・リドリー)を見つけたことでさまざまなトラブルが発生するようになるが…

 

 設定はけっこう面白い。また、舞台が「ノイズ」ばっかりの「ニュー・ワールド」、さらにヒロインがヴァイオラということで、シェイクスピアの『テンペスト』('The isle is full of noises'も'O brave new world'もこの芝居のセリフである)と『十二夜』(ヒロインが難破船の生存者であるヴァイオラ)から影響を受けていると思われる。役者陣も主演の2人の他にマッツ・ミケルセンデヴィッド・オイェロウォ、ニック・ジョナスなどが出ていてみんな頑張ってはいる。しかしながらこういう良いところを全然生かせていなくて、展開がゆっくりすぎるし、先住民であるスパクルやらトッドが逃げ込むファーブランチやらの描写がいい加減すぎてまったく生煮えだし、男性支配と女性嫌悪みたいな深刻なテーマは全然掘り下げられていない。それからやたら手持ちカメラを使っているのだがこれが全く効いておらず、正直カメラ酔いして気持ち悪いだけで、いったい何の効果を狙ってこんな撮り方をしたのだ…というようなところもけっこうある。

 それで、たぶん一番の問題は、この映画は見ていてげっそりするようなひどい映画ではない…というかみんな真面目に作った映画なのだと思うが、一方でたぶんそのせいでSF映画によくある、とにかくひどい出来だが変にぶっとんだ魅力がある、というようなところがほぼ無いということだ。どこも頑張って真剣に作られているのだが平板で、あんまり記憶に残るところがない。『ジュピター』とか『ヴァレリアン』は、破綻しまくったどうしようもないSF映画なのだが、たまに目を見張るような派手に変ちくりんなところとか、キュートで笑えるところとかがあって、そのせいで「あれはひどい映画だったがあの場面だけは嫌いになれない」みたいな印象に残るのだが、『カオス・ウォーキング』はそういう華麗な破綻ぶりがなく、単にダラダラと手持ちカメラで生煮えのお話が続く、みたいな感じになってしまっている。たぶん途中でマッツ・ミケルセントム・ホランドがノイズダンスバトルでも始めたらもっと面白い映画になっただろうと思う(2人とも踊れるので)。