今の事情を先取りしたような台本~中野ザ・ポケット『シェイクスピア様ご乱心』

 中野ザ・ポケットで『シェイクスピア様ご乱心』を見てきた。この演目は2016年に作者である高野水登が演出した際に見てとても面白いと思ったのだが、今回は渡部寛隆演出によるものである。

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 前回見たのは5年も前なのだが、エリカ(田口華)は前回よりもちょっと当たりが柔らかい感じがすると思った。前回のエリカはいかにもブスッとしていて役者なんかやりたくないのにやらされているような感じだった気がするのだが、今回のプロダクションのエリカはもうちょっとアイドルらしい感じ…だと思ったら、実際にこの役者さんは元アイドルらしい。前回のエリカは本当にヒマな時はひたすら家に閉じこもって映画を見ていそうな感じだったが、今回は今回で別の味わいがあるというか、周りからはあんまり映画に詳しいなどとは思われていなそうな若い女性が実は映画とか演出に詳しいということで、ステレオタイプを裏切る演出になっている。

 最初に見た時から思っていたのだが、今見直すとこの戯曲はけっこうその後に問題になった舞台芸術でのハラスメント問題をうまく扱っていて、先見の明のある台本だったと思う。あからさまなハラスメントはもちろん、演出家がワークショップなどでやたら役者やスタッフに個人的体験をシェアさせようとするなとどという行為も良くないということが2017年くらいからよく言われるようになって劇場がガイドラインを出したりもしている。この戯曲はこのあたりのことをスマートかつコミカルに扱っている。