とてもつらいが、よくできたドキュメンタリー~『17 BLOCKS 家族の風景』(オンライン試写)

 『17 BLOCKS 家族の風景』をオンライン試写で見た。デイビー・ロスバート監督によるドキュメンタリー映画である。Bunkamuraの配信システムであるApartmentで有料配信されている。

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 ワシントンD.C.に住む黒人のサンフォード家の人々の暮らしを1999年から20年くらいにわたって撮り続けた、言ってみれば家族で作ったホームビデオ的な映像を編集したものである。タイトルの17ブロックというのはワシントンD.C.のナショナル・モールがあるあたり、つまりアメリカ政治や観光の中心地から17ブロック離れただけのところにサンフォード一家が住んでおり、ここは極めて治安が悪い。中心人物はサンフォード家の兄弟であるエマニュエルとスマーフ、姉妹のデニース、その母のシェリルである。下の子であるエマニュエルは賢い子で、近所に住んでいたロスバートからカメラや映画のことを教わって興味を示すようになる。シェリルとスマーフはドラッグにかかわるようになるのだが、エマニュエルは真面目に高校を卒業し、ドラッグもやらず、消防士を目指していた。ところが2009年、おそらくスマーフを狙ったと思われる銃を持った連中がサンフォード家を襲い、エマニュエルが撃たれて死んでしまう。期待の息子だったエマニュエルを失ったサンフォード家は深い喪失に苦しむことになる。

 大変重いテーマを扱ったドキュメンタリーで、正直かなり見るのがつらいところもある。エマニュエルが撃たれた後の血まみれの家の様子まで記録されており、このあたりはわりとショッキングだ。エマニュエルの死後、精神的ショックのせいでこの一家がもともと抱えていたドラッグの問題は余計ひどくなるのだが、そのあたりもフラットな感じで撮られている。精神的にボロボロになりつつもなんとか人生を立て直そうとする一家の様子が冷静だが優しく、かつ政治的に厳しい目をもってとらえられており、タイトルが示唆するように、アメリカの一部の繁栄はこうした人々を無視した上で成り立っているのだということを考えさせられる構成になっている。最後にはエマニュエルの死後にこの地区で殺人の被害にあった人たちの名前が列挙されており、BLM運動ともつながる内容になっている。