ちょっとトーンにばらつきがありすぎて…『キングスマン:ファースト・エージェント』(ネタバレ)

 『キングスマン:ファースト・エージェント』を見てきた。『キングスマンフランチャイズのプリークェルで、キングスマン誕生の経緯を描くものである。

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 平和主義者のオクスフォード公爵オーランド(レイフ・ファインズ)はボーア戦争時に赤十字の活動中に妻を失い、息子のコンラッド(ハリス・ディキンソン)を注意深く守りながら育ててきた。しかしながらひょんなことからオーランドとコンラッドは極秘任務でロシアに向かうことになる。任務終了後にすっかり成長したコンラッドは、父の反対を押し切って第一次世界大戦に出征してしまう。

 面白いところはいろいろあり、ファインズは演技もアクションもさすがだし、第一次世界大戦中に塹壕で兵士が戦争詩を書いているなんていう小ネタまで盛り込まれているあたりもいいのだが、全体的にはトーンがかなりバラバラでどういう方向性に行きたいのかよくわからなかった。序盤ではなんとオーランドがまだ未成年の息子のコンラッドラスプーチンリス・エヴァンズ)を誘惑させようとするというとんでもない展開があり(任務で毒殺用のお菓子をすすめるためで何かあったらすぐ助けにくる前提だとは言え、お色気作戦を息子にやらせるとはずいぶん非常識な親だ)、こういう悪趣味で荒唐無稽なところはいつもの何でもありの『キングスマンフランチャイズっぽい(幸いラスプーチンはもう少し趣味が良くて、洗練されていない未成年者よりも渋い紳士のほうがお好みだったようだが)。ところが終盤はコンラッドが出征してかなり悲惨な第一次世界大戦の話になる。『ワンダーウーマン』でもそうだったが、第一次世界大戦というのはたいてい悲惨な話にしかならないもので、とんでもないシリアスな鬱展開になってしまう。最後はまた荒唐無稽なスパイアクションに戻るのだが、ナンセンスなアクションスリラーにしたかったのか、ダークな戦争アクションにしたかったのか、イマイチよくわからない。

 キャストもなんだか無駄遣いのような気がする。ジャイモン・フンスー演じるショーラはかっこいい役ではあるが、貴族に使える忠実な用心棒で武術指南役が黒人男性というのはいかにも帝国主義時代の名残っぽいし、ジェマ・アータートンもそんなにちゃんと活かされていない気がする。一番パッとしないのはダニエル・ブリュール演じるエリック役で、なんとこの人は実在するユダヤ系のインチキ占い師であり、ナチスとも親しかったというエリック・ヤン・ハヌッセンという人に基づいているらしい。本来ならとてもおいしい役柄である気がするし、ダニエル・ブリュールはピッタリだと思うのだが、あんまり活躍できずに最後にちょっとだけ暗躍して終わってしまう。だいたい、イマドキ貴族が活躍するアクション映画というのもねぇ…と思うし、もうちょっといろいろやり方があったのではと思った。