やがて悲しきクマのバーフバリ~『シチリアを征服したクマ王国の物語』(ネタバレあり)

 『シチリアを征服したクマ王国の物語』を見た。ディーノ・ブッツァーティ原作の児童文学をアニメ映画化したものである。

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 タッチやお話はかなり原作に忠実だが、旅芸人のジェデオンとその弟子である少女アルメリーナが老いたクマにお話をするという枠が付け加えられている。アルメリーナがかなり大きい役割を果たすようになっているところは原作とだいぶ違う。枠の中に入っているお話は、シチリアのクマの王であるレオンスが王子トニオを人間にさらわれ、その奪還を試みて人間の街まで行き、悪い大公を引きずり下ろすが、その後人間と暮らすようになったクマたちに腐敗の兆しが見えるようになって…というものである。

 とにかくお話が面白く、またわかりやすい子ども向けのおとぎ話であるにもかかわらず、シチリアというキリスト教イスラームの文化の境界であった場所の歴史が織り込まれており、どんな社会でも腐敗するという政治諷刺もこめられている。直線的なクマとわりと曲線を使った背景の対比も特徴的で、日本のアニメに出てくる動物とはちょっと違う感じの可愛らしさがある。途中でクマと人間が戦うところはバーフバリみたいな荒唐無稽なアクションがアニメのタッチを生かした手法で描かれており、またサーカスとクマの動きを組み合わせたシークエンスなどはかなり見ていてワクワクした。最後はちょっと悲しく、哀愁に満ちた終わり方になっている。物語を聞いているクマは誰なのだろうか…などということを考えると、余韻も深い作品だ。