宝塚版ワイルド~『ザ・ジェントル・ライアー ~英国的、紳士と淑女のゲーム~』

 『ザ・ジェントル・ライアー ~英国的、紳士と淑女のゲーム~』を見てきた。最近、新国立でも上演されたオスカー・ワイルドの『理想の夫』を田渕大輔が翻案・演出したものである。

 基本的な設定などは同じだが、だいぶカットや順番の入れ替えがあり、終盤もそれにあわせて変更されている。ロバート(綺城ひか理)とチーヴリー夫人(紫りら)が最初に会って経緯を話すところはなくなり、その後のロバートとアーサー(瀬央ゆりあ)が相談するところに差し込まれている。また、終盤は副題の「ゲーム」に沿って展開がいろいろ変更され、原作よりも映画版『理想の結婚』に似せているところもある。重要な小道具であるブレスレットになるブローチがカットされており、アーサーとチーヴリー夫人の「ゲーム」、アーサーとガートルード(小桜ほのか)の「ゲーム」で話にオチがつく。

 また、ひとつ宝塚っぽい変更…というか特定解釈への肩入れと言えるのは、アーサーがメイベル(詩ちづる)に心を寄せるようになる前にガートルードに恋していたという展開があるところである。原作ではこれは全く言及されておらず、そう解釈することも可能ではあるが、私はそう解釈していない。原作のアーサーはわりと人情の機微を突く狡猾な策略も使える性格で、不真面目で逸脱した女が好みな感じがするのでガートルードにロマンティックな感情を抱いていたというのはなさそうな気がするのだが(恋愛する相手はチーヴリー夫人やメイベルみたいなちょっと変わったタイプ、お友達はロバートやガートルードみたいな真面目で信用できるタイプと分けていると思う)、宝塚版のアーサーは原作より真面目で優しそうで少し世間知らずな感じもあり、これならまあガートルードに惚れたことがあってもおかしくないか…という感じはする。また、このプロダクションはメイベルも原作よりしっかり者な感じなので、アーサーの女の好みがブレまくっているというわけでもない。

 全体的にはこの間の新国立よりゴージャスで笑えるところもあり、面白かった。やはりワイルドにしては真面目すぎるのが物足りないが、芝居がかった時代ものでも豪華さと優雅さで楽しめる作りにするという点では宝塚は手慣れているので、他の劇団よりもワイルドをやるのに向いているのかもしれない。また、アーサーのお父さんであるキャヴァシャム卿(美稀千種)がけっこう良く、愛嬌のあるにくめないおじちゃまで笑わせてくれるので、そのあたりが効いているのかなと思った。