OSINT以前の情報工作~『オペレーション・ミンスミート ナチを欺いた死体』

 『オペレーション・ミンスミート ナチを欺いた死体』を見てきた。第二次世界大戦中に実際に行われた、ナチスを騙すための欺瞞作戦を描いた映画である。

www.youtube.com

 第二次世界大戦の最中、連合軍のシチリア侵攻をナチスから隠すため、諜報部のユーエン・モンタギュー(コリン・ファース)、チャールズ・チャムリー(マシュー・マクファディン)、モンタギューのアシスタントであるヘスター・レジェット(ペネロープ・ウィルトン)は死体に偽書類を持たせてスペインの海岸に打ち上げるオペレーション・ミンスミートを実行する。優秀な女性職員であるジーン・レスリーケリー・マクドナルド)も作戦メンバーに加わり、死体の調達から架空の人物の身元作りまで入念な準備をする。任務の中で、アメリカにいる妻と疎遠になっているユーエンとジーン、チャールズの間に緊張が生じていくが…

 ロシアによるウクライナ侵略ですっかり戦争中の情報操作がOSINTの時代になってしまったわけだが、かなりの脚色はあるにせよ、OSINTの前はこういうふうに情報操作をしていたのか…と思うようなところがたくさんあり、期せずしてタイムリーになってしまった映画である。たぶん基本的なコンセプトはOSINT以前も以後も同じで、どれだけもっともらしい情報を相手に信じさせることができるかというのがポイントで、それに沿っていかにももっともらしい偽情報を手間をかけて作り出すプロセスを描いている。もっともらしい情報を作ろうとしたら官僚的な上司から横やりが入るとか、英国軍の組織に起因する問題もユーモアをまじえて描かれている。また、いかにも真面目な外交官風のエインズワース(ニコラス・ロウ)が実は男女両方に対して色仕掛けで諜報作戦を展開しているという描写があり、「たしかにこういうタイプのほうがかえって警戒されないのかもしれない」と思うようなところもある。のちに007の著者として有名になるイアン・フレミング(ジョニー・フリン)も登場しており、これはある程度史実に基づいているそうで、英国軍の関係者がみんな小説家になりたがっているとかいうようなジョークも作中に登場する。

 全体的にはとても面白く見られたが、ユーエンとレスリーの間のちょっとしたロマンスは要るのかな…と思った。史実ならまあしょうがないのかもしれないが、偽の役柄を演じる中で実際に思慕が…というのはちょっと芝居がかっている気がする(戦時中)。また、もうひとつ気になったところとして、私が最近気になっている、昔の英国軍の上級軍人の話し方が汚すぎるという問題がある。イヤな上司のゴドフリー(Mなどと呼ばれている)が部下に対してFワードを使ったりするのだが、さすがにこの頃の英国の提督レベルの軍人が(撃たれたとか殴られたとかならともかく)部下の前でこんな汚い話し方はしないのでは…と思う(実際にMのモデルになった人らしいのだが、本当にこんなにしゃべり方が汚かったのだろうか?)。