ウィリアムズ姉妹のことをストレートに映画にすればいいのでは?~『ドリームプラン』(ネタバレあり)

 『ドリームプラン』を見てきた。センス0の日本語タイトルがついているが、原題はちょっとシェイクスピアっぽいKing Richardで、テニス選手であるヴィーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹の父リチャード・ウィリアムズの伝記ものである。途中で一度リチャードがKing Richardと呼ばれるところがあるのだが、court(宮廷)をtennis court(テニスコート)に引っかけてるのかもしれない。

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 リチャード(ウィル・スミス)はテニスの専門家ではないのだが、生まれる前から子どもたちをテニス選手にするプランを作り、ヴィーナス(サナイヤ・シドニー)とセリーナ(デミ・シングルトン)にテニスの英才教育を施す。貧しいワーキングクラスの家庭だが、驚くべき行動力で娘たちをテニスのコーチに売り込み、才能を認めさせて無料レッスンを受けさせる。プランに従い、若いうちからトーナメントに出すぎて疲弊するのを避けつつ、2人を名選手にすべく努力する。

 話としてはけっこう面白い。リチャードを良く描きすぎている気はするし、ウィル・スミスの感じのいい演技のせいでけっこうスムーズに見られてしまうのだが、それでもこの父親がどう見ても変な人であるというところや、妻のオラシーン(アーンジャニュー・エリス)とそこまでうまくいっていないというところ、最終的には娘たちの意思が大事なのだというところも描いていて、礼賛一辺倒にはなっていない(もうちょっとこのあたりははっきり描いてもいいと思うのだが)。また、リチャードは厳しいのだが娘たちが試合で負けても怒らず、自尊感情を大事にすることだけはちゃんと教えているというところは教育方針の良い点として描かれている。人種差別や、テニスがお金のかかるスポーツであるため才能のある子でもなかなか伸ばしてもらえないという格差問題があるところも丁寧だ。途中でウィリアムズ一家が子どもに厳しすぎるとして警察を呼ばれるところがあるのだが、これがアジア系ならたぶん警察は来ないだろうな…などと考えてしまった。

 ただ、全体を見て思うのは、なんでウィリアムズ姉妹のことをストレートに映画にしないんだろう…ということである。たしかにこのお父さんは面白い人なのかもしれないし、礼賛一辺倒というわけではないのだが、結局はお父さんが頑張ったから娘たちが成功したというような、男親の教育自慢みたいに見えかねない作品になっている。これなら実際にテニスの世界で人種差別、性差別と戦ったウィリアムズ姉妹を主体にして描くような映画にしたほうが良いのではないかと思った。また、ウィリアムズ姉妹の映画ですら、女性スポーツ映画によくある「勝てないで終わる」映画という定型にハマっているのはちょっとなぁ…と思った。ウィリアムズ姉妹の映画なら、相手をねじ伏せて勝つところで終わりでもいいのではないかと思う。