すごく頑張っているが、もっと笑えてもよいと思う~俳優座劇場『ピローマン』

 俳優座劇場でマイケル・マクドナーの『ピローマン』を見た。小川絵梨子による翻訳を用い、寺十吾演出で、演劇集団円によるものである。本来は去年上演予定で楽しみにしていたのだが、延期されてやっとこのたび上演となった。この作品は台本は読んだことがあったが、ライヴで見るのはこれが初めてだった。

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 わりと特定の地名が出てきて地域色のあるマクドナー作品にしては珍しく、舞台はたぶん東欧かどこかの特定されていない全体主義的な国である。仕事の合間にたくさんの残酷なおとぎ話を書いているカトゥリアン(渡辺穣)が何だかわからない理由で警察につかまり、脅迫的な尋問を受けるところから始まり、どうもカトゥリアンが書いた話にそっくりの子ども連続殺人事件が起こっていて、そのためにカトゥリアンとその兄で障害のあるミハエル(玉置祐也)がつかまったことがわかる。捜査の過程にカトゥリアンが書いた暗いお話がいくつか挿入されるという作りになっている。

 マクドナーらしい暴力とブラックユーモアに満ちた作品である。けっこうじめじめした感じの小汚い取調室のセットなどは非常に作り込まれている。一部カットしていてそれでも3時間の上演時間があるのだが、わりと緊張感があって長さは感じさせない。ただ、笑うところが少ない…というか、観客みんなが笑ったところは無くはないのだが思ったより少なく、私がクスっとしてしまったところでも他の人たちは笑っていなかったり、けっこう真面目でユーモア控えめだ。初演はカトゥリアン役がデイヴィッド・テナントだったそうで、たぶんブラックユーモアを意図したキャスティングだと思うのだが、このプロダクションももっと過剰にやって笑えるようにしてもいいのではと思った。ミハエル役の玉置祐也がかなりよくやっており、ミハエルとカトゥリアンのやりとりは心温まるところ、笑えるところ、背筋が寒くなるようなところのメリハリがしっかりしていて良かった。