楽しい作品だが、ミーナ周りの展開が弱すぎる~『SING/シング: ネクストステージ』(ネタバレ)

 『SING/シング: ネクストステージ』を見てきた。2016年にイルミネーションが作ったバックステージものアニメの続編である。前作の主なキャストの他、新キャラも登場し、今作からボノ、ホールジーファレル・ウィリアムズなどプロのミュージシャンが声優として参加している。

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 ムーン劇場を『不思議の国のアリス』モチーフのショー連日満員にしているバスター(マシュー・マコナヘイ)が、さらなる夢を求め、仲間を率いてエンタテイメントの本場であるレッドショアでショーをしようとするという話である。相変わらずの強引さでグンター(ニック・クロール)の企画を大物ジミー・クリスタル(ボビー・カナヴェイル)に売り込み、長年隠遁生活を送っているロックスターのクレイ・キャロウェイ(ボノ)を出すとハッタリで約束する。ところがクレイは全くとりあってくれず、ショーの準備も多難で…

 お話は定番のバックステージものだが、初っ端からやたらとサイケデリックなデザインが目に楽しいし、第1作からのキャストはもちろん、ボノやファレルが歌ってくれるのは耳にも楽しい。私が前作ですごく良いと思ったのは、かなりアニメっぽく可愛く大げさにデフォルメしているものの、基本的には実際に劇場で使える特殊効果の延長や、劇場でクリエイターがやりたいと思っていそうな演出をアニメできちんと見せる絵作りをしていた点だった。今作でもそれは健在で、この第2作では、ラスヴェガスにブロードウェイを足したみたいなエンタテイメントの街レッドショアが舞台なので、バスターが持っているリージョナルシアターよりもだいぶお金がかかる装置が使えるという設定になっている。非常に大がかりなプロジェクションとか、客席までパフォーマーを飛ばせるフライングマシンなどが出てくるが、描き方はちょっと極端ではあるものの、このあたりは大規模で豪華な最先端の劇場にはあってもおかしくない装置を誇張して描いている感じになっている。なんだかんだで予算で苦労していたのであろうバスターが、ワクワクしてこういう高価な装置を使おうとしているのもよくわかる…と思った。

 しかしながら、おおむね劇場でありそうなことについてきちんとリサーチをして作っているのに、一箇所とても弱いと思えるところがあった。若いゾウの女性歌手であるミーナ(トリー・ケリー)の成長の展開が弱すぎるということである。ミーナは初めてラブシーンのある恋人役をすることになり、バスターに自分はボーイフレンドすらいたことがないのに役に自信が無いと相談するのだが、バスターは相変わらずの強引さで「大丈夫!キミならできるよ!相手役はプロだし!」みたいな感じでいっこうに役に立たない。さらに相手役のダリウス(エリック・アンドレ)は自己中心的でサッパリ新人をサポートしてくれず、ミーナは演技ができずに途方に暮れてしまう。ところがそこで現れたアイスクリーム屋のアルフォンソ(ファレル・ウィリアムズ)にミーナは一目惚れしてしまい、恋を知ったおかげで恋人役もできるようになる。

 この展開には2つ、大きな問題がある。まず、これは「恋の経験があれば自然に恋人役もできるようになる」みたいな素朴な(しかしながら昔から根強く存在する)演技観に基づいているのだが、実際には恋をしたことがあろうがなかろうが、台本の分析とか発声とか、いろいろな訓練がないと演技はできるようにならないはずだ。もうひとつ問題なのは、まだ若いミーナが適切なサポートを受けられていないということである。本来であればバスターがミーナに新人指導に慣れている演技のコーチを紹介するとか、信頼できるベテランスタッフにミーナの相談にのってくれるよう頼むとか、必要があればインティマシーコーディネーターを頼むとか、そういう介入が必要なはずである。ところがバスターはまあそういう教育的な配慮がきちんとできる性格ではないので(ジョニーにも全くあわないコーチを紹介して勝手にジョニーが自分で先生を探して解決している)、ミーナは放っておかれるわけだが、いいところにアルフォンソが現れたために勝手に解決してしまう(バスターはミーナとジョニーに謝って今後の反省点としたほうがいいと思う)。ファレルの歌がうまいのでなんとなく流してしまいがちだが、このへんはもうちょっとプロットを練ってほしい。