これなら原作をそのままやったほうがいいような…『サロメ奇譚』

 東京芸術劇場で『サロメ奇譚』を見た。ワイルドの『サロメ』を現代風に翻案したものである。台本はペヤンヌマキ、演出は稲葉賀恵が担当している。

 舞台は現代で、セットは二階建てである。ヘロデ(ベンガル)は風俗業界の大物、へロディア松永玲子)はその妻で、サロメ朝海ひかる)は連れ子である。ヘロデの部下である南部(東谷英人)が狂言回し的な役柄をつとめ、お話は南部のマグロ解体(切り取ったマグロの頭が出てくる)で始まり、南部によるヨカナーン(牧島輝)の首とりで終わる。 

 しかしながら、全体的にこういうモダナイズはほとんど効果をあげていないと思う。ヨカナーンは、役者はいいのに設定はあまり現代的になっていないし、ヘロデが風俗王だという設定が大きい意味を持つわけでもないし、現代っぽい設定にワイルドの華麗なセリフがあわなくてむしろちぐはぐに見えるだけになっている。現代人も共感できる舞台にということで作られたらしいのだが、別に『サロメ』はそもそもそのままの台本でかなり現代的な解釈で演出でき、現代人も充分楽しめる作品なので(以前見たRSCの男優マシュー・テニスンが演じる版とか、アル・パチーノとジェシカ・チャステインが主演の版とか、現代風の面白い上演はたくさんある)、わざわざ半端にいじってセリフと設定が齟齬をきたすようなことをしないほうがいいように思える(変更するならもっと大胆にやったほうが良い)。あまり台本が綺麗にまとまっていないせいか役者陣のセリフもちょっと練られていないところがあり、とくにヘロデ役のベンガルはいつもに比べるとずいぶん精彩を欠いているように見えた。最後のダンスは悪くないが、とくにこの台本でやる必要は感じなかった。