甘い物が食べたくなる図書館アクション映画~『ガンパウダー・ミルクシェイク』(ネタバレあり)

 『ガンパウダー・ミルクシェイク』を見てきた。

www.youtube.com

 主人公サム(カレン・ギラン)は、殺し屋の母親スカーレット(レナ・ヘディ)がまずいことになって逃げ出して以来、母親と一緒に仕事をしていたネイサン(ポール・ジアマッティ)のもとで腕利きの殺し屋に成長していた。ところがサムがミッションの途中で少女エミリー(クロエ・コールマン)を助けたことからトラブルが発生し、サムは15年振りに母親と再会し、女殺し屋たちが運営する「図書館」に助けを求めることになる。

 90年代のタランティーノジョン・ウィック・シリーズの女性版みたいなアクションものである。けっこう激しく血が飛んだりするようなアクションが多いところは『キル・ビル』などを思わせるが、世界観が独特で特殊な設定が使われているところはジョン・ウィック・シリーズに似ている。とくにアンナ・メイ(アンジェラ・バセット)、フローレンス(ミシェール・ヨー)、マデリン(カーラ・グギノ)が司書として常駐している図書館がかなりの特殊設定で、本の中に武器が隠されている。図書館員がどうも自分の趣味で本に武器を隠しているようで、ブロンテとかヴァージニア・ウルフとか、フェミニスト的で強そうな作家の本には強そうな武器が隠してある。図書館はジョン・ウィック・シリーズにも出てきていてやはり本が隠し場所として使われていたのだが、実際のニューヨーク公共図書館を使っていてかなり地域密着型であるジョン・ウィック・シリーズとは異なり、『ガンパウダー・ミルクシェイク』はわざとファンタジーっぽく設定がぼかしてあって舞台がどこの街だかもよくわからないし(撮影はだいたいベルリンでやったらしい)、図書館がどういう資金で運営されているのかも不明…というか、まず公共図書館ではないだろうし、ジョン・ウィック・シリーズのコンチネンタル・ホテルみたいな営利施設でもないだろうし、ひょっとしてこの世界には殺し屋チャリティがあって犯罪組織が図書館に資金を拠出しているのだろうか…とか、実はマネーロンダリングの隠れ蓑なのかな…とか(!)、いろいろ想像してしまう。

 基本的には娯楽的なアクション映画で、90年代末くらいのテイストに溢れているのだが、図書館の本の小ネタとか、女性同士の連帯を描いているところとか、ところどころフェミニズム的なアップデートがある。出ている女優陣は控えめに言っても最強だし(どの女優さんもひとりでアクション映画の主役を張れるレベルで存在感がある)、それぞれ個性が違っているのも良い。また、序盤から出てくるクリームたっぷりミルクシェイクがとても美味しそうで、見終わると甘い物が食べたくなる。

 一方でいくつか脚本に掘り下げ不足があるのでは…と思うところもあった。エミリーがサムを許してしまうところはちょっと強引というか、都合の良い展開である気がする。とくにエミリーのお父さんの死のプロセスがイマイチはっきり描かれていなかったので、実は生きてたとかなのか?と思ったらそういうわけでもなく、このあたりは脚本をもっと練るべきなのではと思った。また、フローレンスとマデリンが非常に親しそうで、この2人は恋人同士なのかな?と思ったがそれもあんまりはっきり描かれておらず、このへんは『オールド・ガード』を見習ってきちんとやってほしい。