スパークスのすごさがわかるドキュメンタリー~『スパークス・ブラザーズ』

 エドガー・ライト監督の音楽ドキュメンタリー『スパークス・ブラザーズ』を見た。ロンとラッセルのメイル兄弟のバンドであるスパークスの来歴を辿ったドキュメンタリーである。

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 スパークスグラムロックの時代から活躍している古株で、ものすごくユニークな曲作りが特徴のバンドである。メイル兄弟はカリフォルニア出身で、チャップリンヒゲのキーボディストであるロンとファルセットヴォーカルが特徴のラッセルが生み出すエキセントリックで機知に富んだ音楽が魅力である。大変風変わりで玄人受けするバンドで、どっちかというとイギリスとかヨーロッパでウケそうな作風であり、浮き沈みもたくさんあったのだが、この映画はそんなスパークスがどれほど重要で後世にどんな大きな影響を与えたか、本人たちと関係者の取材を通して浮かび上がらせていく。メイル兄弟はもちろん、インタビューに応じているのはベック、レッチリのフリー、フランツ・フェルディナンドのアレックス、ウィアード・アル、マイク・マイヤーズジェイソン・シュワルツマンなどそうそうたる面々で、監督のライトが「ファン」という肩書きで出演している(ここは映画館内で笑いが起きていた)。スパークスのようなユーモアのセンスがあるバンドはコミックバンド扱いでちゃんと評価されてこなかったということが指摘されており、これはなるほどなと思った。

 スパークスの業績をきちんと評価しているばかりではなく、スパークスのユーモアある作風を反映し、全体的にドキュメンタリーでありながらけっこう笑えるところもあって、大変面白い。正直なところ、同じライトの近作である『ラストナイト・イン・ソーホー』の10倍くらいは面白く、私が今までに見た音楽ドキュメンタリーの中でもかなり上位に入る出来だと思ったので、ライトはこの路線でまた撮って欲しい。ただ、ひとつ少し不満なのは、スパークスの独創性を強調しすぎていて、オペラっぽさとかグラムロック的な要素みたいな音楽的影響の分析が少ないところだ。私は十代の時にグラムロックの変わり種としてスパークスを初めて知ったので、エキセントリックなミュージシャンが多いグラムの中でもとくにエキセントリックだったスパークス…みたいな位置づけをもう少しやってもらえると時代背景がわかりやすいのではという気がした。