そこまでクィアなことやっといて最後それかよ…『TITANE チタン』(ネタバレあり)

 『TITANE チタン』を見てきた。『RAW〜少女のめざめ〜』を撮ったジュリア・デュクルノー監督の新作である(同一人物かもしれない登場人物が出てくるので、一応『RAW』と同じユニバースなのかもしれない)。

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 小さい頃に交通事故に遭い、頭にチタンのプレートを入れることになったアレクシア(アガト・ルセル)は成長し、車の展示会でショーガールとして働いていたが、実は連続殺人犯であった。アレクシアは殺人の後に車とセックスするが、その後、胎内から黒い油が出てくるようになり、妊娠したことがわかる。アレクシアは殺人犯として逮捕されるのを避けるため、子ども時代に行方不明になっていたアドリアンという青年に変装する。息子を探し続けていた消防隊長ヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)は、アレクシアをアドリアンとして受け入れる。

 途中までは妊娠の恐怖とか、二分法的なジェンダーシステムを乗り越えるアイデンティティのあり方とか、血のつながらない家族とか、かなりいろいろクィアなモチーフが出てきて面白かったのだが、終盤で急に失速するというか、結局最後それかよ…みたいな終わり方になってがっかりした。(これ以降完全なネタバレになるが、)アレクシアは途中で一度、いつも殺人に使っているかんざしみたいなヘアピンで中絶をしようとするのだが、うまくいかない(アレクシアはあんまり消毒してないヘアピンで何でもやろうとしていて、かなり衛生観念がヤバい人であり、たぶん妊娠してなくてもそのうち何かの感染で死ぬんじゃないのか…と見ていて心配になる)。そういうわけでアレクシアの胎内で得体の知れないものが育っていって、アレクシアはそれに怯えるのだが(このへんは『Swallow』にちょっと似ている)、妊娠の恐怖を描くのにわざわざ連続殺人犯の女性が車とセックスするなんていう設定を持ち込む必要があるのかな…と思った。というのも、この描き方だと変なセックスをすると不幸な妊娠をする、あるいは殺人を犯すような悪い女だから不幸な妊娠をする、みたいなただただネガティヴな話にも見えかねないと思うからである。妊娠というのは別に子どもの親が車ではなくても身体が変形する恐怖のプロセスだと思うので、余計な設定は要らないのではと思う。

 さらにアレクシアが最後、結局出産して死ぬことになり、生まれた子どもをヴァンサンが引き取る。ここでヴァンサンが慈父のように描かれているのだが、これは「意に反した妊娠だけど生まれりゃなんとかなりますね」みたいな感じで、なんだか究極のプロライフ映画みたいに見えてきてしまった。アレクシアは意に反した妊娠を受け入れさせられた上、出産で死亡することによってこれまでしたことのまあ贖罪だかなんだかになりました…みたいな感じで、出産を安易に綺麗なオチに使いすぎである。途中まではいろいろ革新的でクィアな描写をしていたのに、終盤が妙に伝統的なところに行き着いてしまう。

 あと、前作『RAW』もそうなのだが、本作もなんか実はけっこう「お父さんに我慢してもらえばなんとかなりますよ」みたいな終わり方なのが気になる。『RAW』も『TITANE』も我慢したる男性は何らかの聖性を負わされて描かれており、これは忍耐した女が聖女扱いされることの裏返しをあえてやっているのかな…という気もするのだが、一方で監督のフェティッシュなこだわりなのかもしれない。最近の映画だと『私ときどきレッサーパンダ』はけっこう『RAW』に似た話だと思ったのだが、『私ときどきレッサーパンダ』のほうが我慢しているお父さんをもうちょっと地に足の付いた感じで描いていたと思う。