その研究室のセキュリティなんとかしろ…『モービウス』(ネタバレあり)

 『モービウス』を見てきた。

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 主人公である医者のマイケル・モービウス(ジャレッド・レト)は幼い頃から血液の病に苦しんでいた。同じ病院で治療を受けていた親友でお金持ちのマイロ(マット・スミス)から支援を受け、マイケルは吸血コウモリを用いた危険な血清を開発する。自身で人体実験を行ったマイケルは、身体は強健になったものの血を必要とし、空腹だと凶暴になる体質に変わってしまう。

 兄弟同然のマイケルとマイロ、父親がわりのニコラス医師(ジャレッド・ハリス)の擬似家族的な関係がどんどん崩壊していく様子はまあまあ面白いところもあり、見ていて始終つまらない映画というわけではないのだが、かなり(あまり良くない意味で)ツッコミどころが満載の作品である。脚本はけっこう弱く、レトとスミスのキャラと演技が醸し出す濃厚なブロマンス風味でなんとか映画が保っているという感じだ。とにかく最初からあまりにもお話が定型的で、マイロが小児病院の外であうイジメとか、マイケルが人体実験するところとか、すいぶんと大げさである。モービウスの殺人がうやむやにされてしまうあたりや、ポストクレジットの無理矢理MCUにつながる展開もそれはそれはいい加減だ。一応全体的に『吸血鬼ノスフェラトゥ』のオマージュっぽいところがあり、映像の雰囲気はもちろん、モービウスが乗っている船は「ムルナウ」だし、最後のマルティーヌ(アドリア ・アルホナ)のくだりもおそらく意識していると思う。モービウスは最初はマッドサイエンティストっぽかったのだが、終盤はピンチになると吸血コウモリと仲良くできるディズニープリンセス的な何かに転職する。

 研究者的には、一番見ていてツッコミたくなったのは、モービウスのラボと患者の病室が近すぎるということである。何しろ担当患者の病室から中が見えるくらい近くにラボがある。モービウスのラボには吸血コウモリがいる上(あんなすぐ見えるところに吸血コウモリを飼っていて最初はマルティーヌに隠そうとしていたというのがまったく驚きだが)、いろんな精密機器、薬品などもあるはずで、子どもが入院しているところの近くにあってよいわけがない(転売狙いとかの泥棒はもちろん、入院している悪意のないイタズラっ子とかが入ってケガしたらどうするつもりだ…)。あんなセキュリティがヤバい研究室でノーベル賞レベルの業績が出るわけはないと思う。