真面目で自由自在な現代映画史~『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』(試写)

 『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』を試写で見た。北アイルランド出身の映画監督マーク・カズンズによる、21世紀に作られた映画に関するドキュメンタリー映画である。カズンズはこの前に15時間くらいあるテレビシリーズの映画史ドキュメンタリー『ストーリー・オブ・フィルム』(未見)を作っており、本作はそのフォローアップである。

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 とにかく幅広い種類の映画を自由自在に同じ要素でつなげて論じているのが面白く、21世紀の映画が世界的に有している傾向性みたいなものがなんとなく見えてくる作りになっている。物語的な要素の比較じたいにはそんなに意外性がないものも多く、ナラティヴ論とかをかじった人にとってはかなり王道な分析と思えるのだが、空間の使い方とか技術革新などについてはあまり考えたことのないような視点もあって斬新だった。アメリカ、オーストラリア、インドや日本、タイなどなどワールドシネマをかなりカバーしていて、たぶん映像芸術というのは国境を越えて相互に影響しあっているのだろうな…ということがわかる。ただ、ハリウッドの王道っぽい映画が意外ととりあげられておらず、アメリカ映画で出てきているのはビッグバジェットでも作家性の高いものやちょっと捻ったものが多くて、このへんは監督の趣味なんだろうなと思った。

 映画をいろいろつなげてナレーションで説明するということで、おそらく『ゴダールの映画史』の後継みたいなものを目指しているのではと思う(ゴダールの革新性についても触れている)。ただ、ゴダールに比べるとわりとバランスが良いと思った。また最初のほうでアニエス・ヴァルダが出てきているが、ヴァルダの『百一夜』も参考にしているだろうと思う…ものの、ヴァルダに比べると真面目である(『百一夜』はかなりふざけたユーモアのある映画だと思う)。