やはり古い作品だと思う~『春のめざめ』(ネタバレあり)

 浅草九劇で『春のめざめ』を見てきた。フランク・ヴェデキントの戯曲のミュージカル化で、戯曲は読んだことがあるが舞台を見るのは初めてである。演出は奥山寛で、キャストはEASTチームだった。

 19世紀末のドイツが舞台で、少年少女の性の目覚めと、それを抑圧する学校や親を描いた作品である。社会批判が辛辣で、当時としては極めてスキャンダラスな作品だったと思われる。主人公と言えるであろう反逆的なメルヒオール(平松來馬)がヴェントラ(北村沙羅)と関係し、ヴェントラが妊娠してしまうという展開と、教師から目の敵にされて落第したモーリッツ(東間一貴)が自殺してしまうという物語が並行して描かれる。

 この作品は、性的なことを抑圧してきちんと子どもたちに教育しないと大変なことになるとか、親が子どもを虐待していてそれが家庭内で隠匿されている可能性があるとか、学校が特定の子どもをターゲットに将来を潰すようなことをしているとか、今でも充分ありそうなテーマを扱っている。オープンでしっかりした性教育(あるいは子どもと性についてきちんと話し合うこと)の重要性みたいなものを示唆しているところは極めて現代的と言える…のだが、一方でものすごく古い作品でもある。たとえばメルヒオールがヴェントラと関係するところは原作では明らかに性暴力だ。さすがにミュージカルではちょっとそのへんを和らげており、ヴェントラが全く状況を理解しないままメルヒオールとセックスしてしまうという展開になっているのだが、正直、同意があるかというと怪しく、今の視点で見るとメルヒオールは知識の不均衡をいいことに何も知らない女の子に迫るろくでなし少年に見える(メルヒオールはセックスの結果として妊娠があることを知っているのだが、ヴェントラはそれすら知らない)。そのわりにヴェントラはメルヒオールに怒ったりせず、大人しくて良い子で、もぐりの中絶を母親から押しつけられて死んでしまうという大変古風な終わり方になる。ヴェントラ以外についても女の子たちの描き方はずいぶんとナイーヴで、マルタ(古沢朋恵)の虐待の話は拾われていないし、イルゼ(小嶋紗里)はいったい何がどうなったのかあんまり描きこまれていないし、徹底的に男子目線のお話だ。相当に女性に対する幻想に満ちた作品だと思う。

 上演としては、不揃いな窓がついた壁に白い蔓のような植物がからんでいるシンプルなセットは良いのだが、全体的に俳優たちを子どもっぽく見せようとしているためか、演技が不自然に大げさでは…と思われるところもあった。また、おそらく相当に歌が難しいと思われ、序盤は全体的に歌が固いし、とくに男性陣はけっこう最後まで歌がこなれていなくて、歌うだけで精一杯で表現力がついてきていないような印象を受けた。あと、細かいことなのだが、本作は大人の男女はすべてひとりの男優(松井工)とひとりの女優(魏涼子)が演じている…ものの、大人の衣装がわりと手抜きだと思った。大人の女性のウィッグがちょっとわざとらしいし、途中で出てくる教会のシーンで、ルーテル派の教会らしいのに女性がカトリックっぽいギンプ(肩を覆う衣類)を着ているみたいに見えるのはなんでだろう…と思った。