ブラッド・ピット、また引退をやめる~『ブレット・トレイン』(試写、ネタバレ注意)

 『ブレット・トレイン』をプレス試写で見てきた。原作は伊坂幸太郎マリアビートル』である。

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 しばらく休養していて復帰した殺し屋レディバグ(ブラッド・ピット)は、日本の高速鉄道でブリーフケースを盗むという楽勝そうなお仕事を復帰第一弾の業務として引き受ける。ところがこの高速鉄道はあやしい人間ばかり乗っており、レディバグは次々に殺し屋と戦うことになってしまう。さらにその背後には大変な大物がおり、レディバグは窮地に立たされる。

 原作のほうは話は荒唐無稽であるものの、けっこう新幹線描写などはリアルだった…のだが、映画化のほうは全体に荒唐無稽さがアップしたアクションコメディになっている(原作の鉄オタ知識アクションみたいな要素はなくなっている)。いろいろ変えてはあるものの中盤くらいまでの展開はかなり原作に沿っているし、小説にも出てくる機関車トーマスの話題などもちゃんと出てくるのだが、そのあたりがクエンティン・タランティーノの影響を受けまくっていると思われる感じで映像に落とし込まれており、タンジェリン(アーロン・テイラー=ジョンソン)とレモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)の会話はタランティーノ映画からとってきたみたいなノリである(この2人の掛け合いはすごく面白い)。

 『キル・ビル』二部作の影響があるようで、荒唐無稽なコメディということもあって、日本描写のバランスはかなり微妙なところである。出てくる高速鉄道は新幹線なのだが、微妙にいろいろ不自然だし「新幹線」と名乗っておらず、高速鉄道のくせに代々木か新大久保かというような感じのあんまり大きくなさそうな駅から出ている(アクション映画の鉄道描写は007のロンドン地下鉄とかも実はそこまでリアルじゃなかったりするので、厳しいことは言わないが)。モモもんとかいう、発音が難しすぎて日本では流行らなそうな名前である一方でいかにも日本っぽいマスコットなども登場しており、このへんは誇張したジャパニーズテイストと言える。ただ、完全に振り切ってアホな作りものというわけでもなく(『キル・ビル』や『オースティン・パワーズ』とかに比べるとたぶん微妙にちゃんと調査に沿ってる)、わりと控えめなアホ日本みたいな感じなので、ちょっと見ていてどう受け取っていいのかわからず、戸惑ってしまうところがある。

 ブラッド・ピットはお得意の「引退をやめた人」の役で、とても楽しそうに暴れている。ブラピと言えばハリウッド随一の「引退をやめた人」役者で、『ワールド・ウォーZ』、『マネー・ショート華麗なる大逆転』、最近では『ザ・ロストシティ』などで、「一度は引退して精神修養とか家事とかをやっていたが、何かのきっかけで復帰した人」の役をやっていた。レディバッグはまさにそういう役なので、ブラピとしてはお手のものだろううと思う。

 なお、けっこういろんな役者が出ており、終盤でデヴィッド・リーチ監督の以前の作品である『デッドプール2』の延長かと思うようなちょっとビックリするカメオがある。ここは見逃さないよう目を大きく開けておいたほうがいい。