音楽は魅力的だが、演出がイマイチ~オペラノース『アルチーナ』(配信)

 ヘンデルの『アルチーナ』を配信で見た。ティム・オールビー演出、ローレンス・カミングズ指揮で、オペラノースにより2月17日に上演・録画されたプロダクションである。『狂えるオルランド』が原作の作品である。

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 魔女アルチーナ(モイラ・フレイヴィン)が恋人ルッジェーロ(パトリック・テリー)をとりこにしている幻影の島に、男装してきょうだいのフリをしているブラダマンテ(マリ・アスクヴィーク)が救出のためやってくる。ところがアルチーナの姉妹であるモルガナ(フレール・ウィン)がブラダマンテを男と思い込んで恋してしまい、モルガナの恋人オロンテ(ニック・プリチャード)は嫉妬に苦しむ。ルッジェーロは魔法のせいでなかなか正気に戻らず、ブラダマンテにも反応しないが…

 音楽は魅力的で、カウンターテナーのルッジェーロとテナーのオロンテの声とか性格がかなりはっきりコントラストになっていてなかなか面白い。とくにオロンテはいきなり服を脱ぎ出したり、恋のせいでだいぶおかしくなっているみたいで、かなり気の毒な役柄だ。お話のほうはバスが歌うメリッソの役を女性のメリッサ(クレア・パスコー)にしてあるし、またもともとの作品にはオベルトという少年が出てくるそうなのだがそれはカットされている。

 カットのせいで話としてはすっきりしているのかもしれない…が、もともとのお話には存在しているのであろう、魔法がたっぷり詰め込まれたメチャクチャな感じはなくなっている。椅子だけがあり、背景に浜辺とか森とかが映るシンプルで暗めのセットで、衣服はほとんど現代のもので、恋人たちの嫉妬や悲しみに焦点をあてた演出なのだが、モダンな話になっているぶん、単なる泥沼の恋愛ものみたいな感じであんまり見栄えがしない。もっとハチャメチャでバロックオペラらしい派手な演出にしたほうが、恋をした時に愚かになってしまう人間の様子が時に悲しく、時に面白おかしく描けるので、こういう作品には適しているのではないかという気がする。