『ブエノスアイレス』4K上映

 ウォン・カーウァイブエノスアイレス』4K上映を見てきた。

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 既に何度か見たことがある作品なのだが、やはりイグアスの滝を含めて大画面で綺麗な画質で見られるというのはありがたいことである。また、香港返還直前という時代背景に密着して撮られた映画で、作られてから25年もたっているのに全く古びていないのには驚いた。最初から最後までとてもクィアなゲイ映画であり、さらには香港返還に関するこっそり政治的な映画でもあると思うのだが(ゲイであり香港人であるあの2人は香港が中国に返還されたらおそらく故郷にいても異邦人同然になってしまう可能性があるのであって、その不安についての映画でもある)、一方でどういう地域のどういう性別の組み合わせの恋愛でも起こりそうな感情のもつれを描いていて、心情の動きがわかりやすい。ファイ(トニー・レオン)もウィン(レスリー・チャン)も驚くほど美しいのに生活感丸出しでリアルに貧乏くさく、スタイリッシュさと小汚さを両立させた不思議な映像も特徴だ。香港返還後の今の時代に見ると、最後に世界のどこにいても異邦人となる可能性を受け入れたかのように見えるファイの勇気は明るいものである一方、悲しいものでもある。

 あと、これは最初に見た時には気付かなかったのだが、よく考えるとアルゼンチンの就労ビザがなさそうなファイがやたらといろいろ簡単に仕事を見つけている。このあたりの理由はあまり説明されていないのだが、まあ昔のアート映画ってそういうのはすっ飛ばしていたし(カサヴェテスの映画とか「こいつ一体何して食ってんの」みたいなところがけっこうあった)、それもまた味…と思ったのだが、よく考えてみたら最近の『シャン・チー』もそうじゃないかということに気付いた(まだ十代のシャン・チーがアメリカに来てからどうやって暮らしていたのかサッパリわからない)。つまりトニー・レオンが出ていると見ている人は理屈とかどうでもよくなってしまうということに違いない(???)。