なんとなく「田舎って怖いなぁ」感が…『LAMB ラム』(ネタバレあり)

 ヴァルディミール・ヨハンソン監督の『LAMB ラム』を見てきた。アイスランドが舞台のフォークホラー映画で、脚本に有名な作家のショーンがかかわっている。

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 舞台はアイスランドの人里離れた山奥の牧場である。マリア(ノオミ・ラパス)とイングヴァル(ヒルミル・スナイル・グドゥナソン)の夫妻は羊を飼って暮らしているが、ある日、羊のうちの一頭が顔が羊、体の大部分が人間(手は片方羊)の生き物を産む。以前、我が子を亡くしたことのある夫妻はこの羊の子にアダという名前をつけて可愛がるようになるが、そこにイングヴァルの弟ペートゥル(ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン)が訪ねてくる。

 極めてセリフが少なく、全体的に撮り方はちょっとドグマ95っぽい比較的私が苦手なやつ(道を歩くとちょっとカメラが揺れたりする)だな…と思っていたら、監督は私が大嫌いなラース・フォン・トリアーが好きらしい。ベルイマンを思わせるところもあるし、また、『ビョークの「ネズの木」~ グリム童話より』とかにもちょっと雰囲気が似ている。一応超自然が介入するフォークホラーである。

 いろいろ謎めいた魅力はある映画だが、全体的に「田舎って怖いなぁ」みたいな感じをやたら強調しているような印象を受け、あまり面白いと思えなかった。まず、マリアとイングヴァルがやっている牧畜・農業にリアリティが無い…というか、この2人はいったいどこで作物や羊毛や羊肉を換金しているんだ…とか、どうやって灯油などの物資を入手してるんだ…みたいなことが全然わからない。他の人と会う場面がほとんどないのはもちろん、電話とかネットとかで同業者や取引先に連絡をとるみたいな描写もあんまりないし、農業とたまにサッカーを見る以外にこの夫妻はいったいどういう趣味があるのかとかいうようなこともわからない(アイスランドは世界一ネットが普及しているはずだし、人口の9割以上は広義の都市部に住んでいるはずなのだが…)。この2人を隔絶させるためにあえて現代農業の社会的な側面を無視しているのだと思うのだが、そこがどうも田舎の孤立っぷりを過剰に強調しているように思える。こんなド田舎で隔絶されたところで暮らしてるから羊人間が生まれたり、羊人間を人間のように育てたりするおかしな夫婦が出るんですよ!という話のように見え、田舎育ちの人間としてはあんまり良いイメージを持てなかった。

 また、最後に出てくる羊人間のボスが黒っぽくてバフォメットみたいな見た目である一方、子どものアダは白くて可愛らしく、幼子イエス(何しろマリアの息子である)みたいなのも陳腐だなーと思った。半人半獣のアダがけっこう人間社会に適応して生きているので、なんか障害があったり、海外にルーツがあったりするような子どもが地元に適応するポジティヴな話みたいな描き方もできそうなのに、そうならずにどんどん超自然ホラーになっていくのはずいぶんと気が滅入る展開だと思った。全く個人的な感想なのだが、なんとなく人種混交に対する恐怖みたいなものをこの映画から感じてしまった。

 また、これはちょっと私が牧羊産業が盛んなところで育ったので偏見がありすぎるのかもしれないが、マリアが母羊を殺したところで食わずに埋めるのはずいぶんな資源の無駄遣いだと思った。立派な羊を育てるのはけっこうなコストがかかるし、あんなに都市から離れたところでは物資は貴重だろうに、もったいないなと思ってしまった(マリアがそんだけ切羽詰まっていて母羊殺しを隠したかったのだろうとは思うが)。よく考えて見ると、子どもをとられた母羊が人間を恨むみたいなのもちょっと人間中心的、母性中心的な考え方ではないかとも思う。