暴力版『バベットの晩餐会』~『PIG/ピッグ』(ネタバレあり)

 マイケル・サルノスキ監督『PIG/ピッグ』を見てきた。

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 オレゴンの森でトリュフをとる仕事をしているロブ(ニコラス・ケイジ)は、可愛がっていたトリュフブタを強盗に盗まれてしまう。盗難に怒ったロブは世間とのほぼ唯一の接点である取引相手の若いアミール(アレックス・ウルフ)に車に乗せてもらい、ブタ探しに出かける。ロブがポートランドでブタ探しをする中で、かつてロブは実は有名なシェフだったことが明かされていく。

 設定だけだとB級アクションなのか犯罪コメディなのかというような感じだが、かなり真面目な人間ドラマで、グルメ映画でもある(笑えるところもあるが)。途中で少しずつ明かされていくロブやアミールの人生の様子は、チラチラわかるだけだがけっこう深刻だ。終盤の展開は『バベットの晩餐会』を思わせる、料理の力を示すものである(『バベットの晩餐会』に比べると登場人物がほぼ男性で、かなり暴力的でもあるが)。わりと悲しい終わり方ではあるのだが、余韻は深い。役者陣の演技も良く、ニコラス・ケイジはこれでもう一回アカデミー賞とってもいいんじゃないかというくらい抑えた演技がしっかりしているし、若くて生意気なアミールを演じるウルフも良い。

 ただ、ちょっと気になるのは映像である。けっこう手持ちカメラを使っていて、たまに使い方がしつこいなと思えるところがある(手ぶれがひどすぎるというわけではないが)。また、全体的に暗い画面が多く、とくに序盤ではそこまで暗くしなくてもいいのでは…と思う場面もあまりにも照明が抑え気味で、本当に暗いほうがいい場面とそこまででもない場面の映像的な対比があんまりはっきりしていないように思った。

 なお、アミールはWASPっぽい名前じゃないな…と思ったら、演じているウルフはユダヤ系だし、お父さん役のアダム・アーキン(アラン・アーキンの息子)もユダヤ系である。アミールはアラブ系に多い名前だが、ユダヤ系でもそういう名前をつけることがあるらしいので、おそらくこの父子はユダヤ系という設定ではないかと思う。