チェッカーボードの戦争~オレゴン・シェイクスピア・フェスティヴァル『ジョン王』

 オレゴンシェイクスピア・フェスティヴァルの『ジョン王』を配信で見た。ローザ・ジョシ演出のものである。『ジョン王』はあまり上演されないので、めったにない機会である(映像は何種類か見たことがあるのだが、たぶん私も生では見たことがないと思う)。

 キャストは男優が出ず、全員女性かノンバイナリの役者である。衣装はわりと現代的だ。最初に子どもたちがチェッカーらしいゲームをしているところから始まり、全体的にこのゲームが上演コンセプトの中心にある。戦争を子どものゲームが暴力的に悪化したような無益なものとして描いており、プレイヤーであるジョン王(ケイト・ウィスニエウスキ)は無能だし、相手になるアーサー(ブレンダ・ジョイナー)はまだ少年だ。アーサーが政治に翻弄され、焼き串をあてられそうになるなどの虐待を受け(これは未遂で終わる)、最後は死んでしまうという展開は悲惨である。

 本作で一番目立つキャラクターは私生児フィリップ(ジェシカ・D・ウィリアムズ)なのだが、このプロダクションでもかっこいいし、笑うところも一手に引き受けている。嫡出子として土地を受け継ぐよりも、王の私生児という事実を受け入れて暮らしたほうが誉れ高く、自分にあっていると考えるフィリップはシェイクスピア劇の中でもかなりの変わり種だ。法や性的な慣習に縛られない自由人で、身分が高いのにそこらの庶民みたいなくだけたところがあるという点ではフォルスタッフやクレオパトラと並ぶ特異なキャラクターである。冒頭から、自分が親に似ていないということまでユーモアをまじえて笑いのタネにするフィリップはとても肝が据わっており、一方で忠誠心や人間らしいところもあって、非常に魅力的だ。