台本がちょっと混乱気味~『歌妖曲~中川大志之丞変化~』

 明治座で『歌妖曲~中川大志之丞変化~』を見てきた。倉持裕が作・演出で、『リチャード三世』をベースにして昭和歌謡界を舞台とした翻案である。

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 芸能一家である鳴尾家の息子である定(中川大志)は、家族でひとりだけ顔と四肢に障害があるため一族の者から疎まれ、虐待を受けていたが、あやしい医者の治療法によって歌手の桜木輝彦(中川の二役)として活動できるようになる。定はヤクザ者である徳田(浅利陽介)や、鳴尾一家に恨みを持っている蘭丸ミュージックの社長である蘭丸杏(松井玲奈)と結んで、一族への復讐を画策する。

 『リチャード三世』がベースだということなのだが、インスピレーション程度でそんなに元の話に沿っているわけではなく、むしろ『ジキルとハイド』とかに似たところもある。二役を演じる中川をはじめとする役者陣はもちろん、途中で挟まれる昭和歌謡ショーとか、なぜか「スンガリー」らしい店の看板も登場している新宿の街のセットとか、けっこういろいろ作り込んである気合いの入った作品で、面白いところはたくさんある…のだが、全体的に台本はちょっと詰め込み過ぎだと思う。定/桜木のジキルとハイドみたいな設定は要るのかな…と思うし、こういう設定にするなら変な医者よりも祈祷師か魔術師でも出してちょっとファンタジーホラー風味にしたほうがいいような気もするのだが、この手のけっこう現実離れした設定が組み込まれているわりには全体的に大河メロドラマみたいな感じで、そこにトーンの齟齬があると思う。時系列をちょっと乱しているのだが、その効果も疑問だ。やりたいことはわかるし頑張ったと思うが、もうちょっと台本をすっきりさせる必要があると思う。