ものすごく大規模に『天体戦士サンレッド』をやっているような…『ブラックアダム』(試写、ネタバレ注意)

 ジャウム・コレット=セラ監督『ブラックアダム』を試写で見てきた。

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 舞台は中東のどこかにあると思われるカーンダックである。この国は古い歴史があるが、英語を話すおそらくアメリカ系の組織であるインターギャングの支配下にあり、圧政に苦しんでいた。そこで反政府活動を行っていた考古学者のアドリアナ(サラ・シャヒ)は、追い詰められた時に身を守ろうとして5000年間眠っていたテス・アダム(ドウェイン・ジョンソン)を起こしてしまう。突然目を覚まして混乱気味のテス・アダムをつかまえるべく、アマンダ・ウォラー(ヴァイオラ・デイヴィス)の要請でジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカのメンバーが出動するが…

 いろいろ雑で緩いところはたくさんあるが、気楽に楽しめるアクションコメディである。いきなりテス・アダムが何の説明もなく英語を話し始めるあたりとかツッコミどころは満載で、このへんはやっぱりけっこう緩かった『ジャングル・クルーズ』と監督が同じだからかもしれない。空気が読めず、あまり建築物の安全性などを考えていないらしいテス・アダムがいちいちドアを開けずに壁をぶち破って出てくるところなどはちょっと笑える。

 緩めの雰囲気や、全体的にカーンダックの町の人に尽くすのが大事だみたいな展開になっているせいで、なんだか『天体戦士サンレッド』(私が以前住んでいた川崎市を舞台にしたヒーローもの)を大金をかけてものすごいスケールでやっているような話である。カーンダックは中心部はかなり発展した都市で歴史もあるのにちょっと郊外に行くと畑が広がっているらしく、なんか川崎っぽい(川崎はサンレッドが住んでいる溝口あたりからちょっと離れるとナシとかのらぼう菜とかを作っている畑がある)。ロック様演じるアダムはヴィランなんだかアンチヒーローなんだかどうだか…というような役なのだが、マイペースなのに強大なパワーを持っているせいで大変迷惑な人になっているという感じである。子どもや市民や自分に親切にしてくれた人を守ろうという気じたいはあるのだが、現代人の感覚が通じない上にけっこう粗暴で、少しでも気に入らない相手はボコって敵は殺すし、いちいち壁をぶち破らずにはいられない(このご当地ヒーローなのにえらく粗暴なところがちょっとサンレッドに似ている)。

 アダムに対抗するジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカは、抑圧に苦しむカーンダックの市民に支持されているアダムを止めに来たということで正直、ヒーローのわりにあんまり良いとは言えないことをしていて、これも悪党なんだか善人なんだかよくわからないフロシャイム川崎支部サンレッドの敵である悪の組織の支部)みたいである。ベテランのお目付役みたいな感じで出てくるドクター・フェイト(ピアース・ブロスナン)は礼儀正しい好人物で、妙なヘルメットが特徴ということも含めて、フロシャイム川崎支部のトップであるヴァンプ将軍みたいだ。ただしハリウッド映画なので、フロシャイム川崎支部は豪邸だし、アニマルソルジャーみたいな若い戦士たちがドクター・フェイトにくっついているが、みんな可愛いだけではなくて大変なハイスペックで戦闘力が高い。

 そういうわけでものすごく豪華に『天体戦士サンレッド』みたいなノリで戦いをしてくれるのだが、ちょっと面白いのは終わり方がえらく民主的、共和制的であるところだ。だいぶ緻密に考えて作られていると思われる『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が相変わらず王制継承の物語であるのを考えると、最後に王制を軽くぶっ壊してしまうアダムはなかなか革新的である。カーンダックにちょっとパレスチナを思わせるところがあったり、開発独裁批判が入っていたりするのも含めて、雑だがわりと政治的にいろんなことをやろうとしている映画だとは思う。