プロスペローが追い出された理由~『gaku-GAY-kai 2022「贋作・テンペスト」』

 劇団フライングステージの年末恒例シェイクスピア企画『gaku-GAY-kai 2022「贋作・テンペスト」』を見てきた。第一部が『テンペスト』、第二部がドラァグクイーンなどが出演するショーである。

 新宿の大公だったプロスペロー(エスムラルダ)は追放されて孤島で娘のミランダ(モイラ)とともに暮らしていたが、かつて自分を陥れた弟アントーニオ(関根信一)と渋谷の王アロンゾー(水月アキラ)、渋谷の王子ファーディナンド(井出麻渡)たち一行が近くを船で通ることを知り、魔法で船を難破させる。島に上陸したファーディナンドミランダと恋に落ちる。プロスペローは弟たちに復讐をすることもできたが、結局許してやることにし、自分は引退して島に残ることにする。

 原作を70分くらいにカットしているわりに話はきちんと通っている。プロスペローが新宿を追放されたのが魔法と女装の研究をしすぎたせいということで、女装に対する差別をユーモアをまじえつつ描いている。これは大変うまい…というか、既に2018年にアメリカのエクレクティック・フル・コンタクト・シアターというところが『お気に召すまま』で公爵の追放理由をトランス差別だとするプロダクションをやっているはずで(私は未見なのだが劇評を読んで面白そうだと思った)、他の演目でもこのやり方はできそうなのにと思っていたところで、『テンペスト』でやってくれて大変良かった。ミランダも女装という設定でこれもいいと思ったのだが、ただミランダが幼少時に「ブルーとピンクのベビー服を置いたらピンクを選んだ」というセリフはちょっと蛇足では…と思った(女の子はピンクが好きというのはステレオタイプだと思うので)。最後にプロスペローが島に残りたいというところもちょっと哀感があってよい。全体的にちょっと役者のセリフが抜けてしまうところがあったのは残念だが、他はおおむね年末にふさわしい、許しの雰囲気に満ちた楽しいプロダクションだった。

 第二部は賑やかなショーで、紙芝居からドラァグショーまでいろいろなものが楽しめる。とくに「水月モニカのクイアリーディング」は『サロメ』のかなり宗教的な翻案で、こういう路線の再解釈もなかなか悪くないと思った。