『丘の上の本屋さん』を試写で見た。
舞台はイタリアの小さな地方の村である。古書店の店主であるリベロ(レモ・ジローネ)はブルキナファソ出身の移民で本が好きな少年エシエン(ディディー・ローレンツ・チュンブ)と仲良くなり、売り物の古本を貸してあげるようになる。一方で隣のバールで働いているニコラ(コッラード・フォルトゥーナ)は店を手伝うというような名目でしょっちゅう古書店にサボりに来ており、常連のキアラ(アンナマリア・フィッティパルディ)を口説こうと一生懸命だが…
ユニセフ・イタリアが制作にかかわっているそうで、途中までは教育的なご当地映画という感じなのだが、最後でいきなり『世界人権宣言』が出てきて、完全なるユニセフプロパガンダ映画(そんなものがあるとは思ってもみなかったが)になるのがビックリした。そりゃあ『世界人権宣言』が図書の普及とか書店の保護とかに実は関連しているというのはよく考えればわかることだが、そうは言ってももうちょっと途中でうまくやれたのでは…という気がする。『世界人権宣言』は別に面白い文書ではないので、エシエンが「あんまり面白くなかった」みたいな話をして最後にそれが何かで拾われる…みたいな展開ならともかく、ためてためて最後に『世界人権宣言』が出てくるので、かなりあからさまなプロパガンダになってしまっている。
チヴィテッラ・デル・トロントという風光明媚なところで撮影したそうで、映像はとても綺麗だし、温かみのある話ではあるのだが、全体としてはあっさりしすぎている上、教育的すぎてあんまり盛り上がりのない映画である。とりあえず本の読み方を教えている教員としては、リベロがエシエンと本の話をする時のアプローチが教訓的すぎると思う。エシエンは賢い子だからああいうアプローチでもリベロとちゃんと本の話ができるが、ふつうはああいう読み方だと本の面白さを考えるよりも教訓的なところを引き出す読み方ばかりするようになってしまって、子どものほうが本を楽しんで読む習慣を身につけられないのではと思った。あと、教育という点では序盤にエシエンにどうもペドファイルっぽい男が近づいてくるけっこう怖い描写があるのだが、ここもヤングアダルトくらいの観客に見せることを想定しているならもっとちゃんと拾ったほうがいいのではないかと思った。BDSMの本を探しに来る女性のくだりは要るのかな…と思ったし(女性はエロティック文学を買いにくいというのはわかるが、とってつけたような感じである)、ニコラがキアラにアプローチするやり方もしつこすぎる気がする。