WASPが出てこない『招かれざる客』~『ユー・ピープル ~僕らはこんなに違うけど~』(ネタバレあり)

 ケニヤ・バリス監督、『ユー・ピープル ~僕らはこんなに違うけど~』をNetflixで見た。

www.netflix.com

 ユダヤ系でブローカーをやめてポッドキャストで食べていきたいと思っているエズラジョナ・ヒル)と、アフリカ系のムスリム家庭で育ったデザイナーであるアミーラ(ローレン・ロンドン)はひょんなことから恋に落ちる。ところがユダヤ人であるエズラの母シェリー(ジュリア・ルイス=ドレイファス)と、アフリカ系ムスリムであるアミーラの父アクバル(エディ・マーフィ)は全くうまくいかない。エズラとアミーラの結婚は破談になりかけるが…

 設定はわりと『招かれざる客』みたいな感じだが、WASPがまったく出てこない…というか、ユダヤ系とアフリカ系ムスリムという双方、マイノリティ家庭のカップルが直面するカルチャーギャップを描いた作品である。「白人と黒人」みたいなおおざっぱな分け方ではなく、白人の中でもマイノリティであるユダヤ系と、たまに反ユダヤ主義的発言をするリーダーが出てきて問題になりがちなアフリカ系ムスリムの家庭がメインなので、ホロコースト奴隷制を比較できるかとか、「家族の顔合わせでそんなところにツッコんではまずいでしょう…」みたいな軋轢がどんどん発生して目も当てられないことになる。民族間の軋轢を扱った作品として、こういう細かい差異に焦点をあてた作品がロマンティックコメディで作られたのはとても面白い試みだと思う。

 ジョナ・ヒルが脚本にもかかわっているので、この種のコメディとしてはけっこう尖ったジョークとか身も蓋もないギャグとかもけっこう出てくる。私はこういうバランスは嫌いではないのだが、好みは大きく分かれるだろうなと思う。あと、同種のロマンティックコメディとしては『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』というよくできた先行作があり、こちらは極めて洗練された内容だったので、それと比べるとちょっとなめらかさに欠けるかなという気はする。

 しかしながらちょっと気になるのは、基本的に「マイノリティはどうしても家族の伝統から逃れられない」という展開になっているところである。アメリカ合衆国におけるマイノリティというのは文化的な集団として成立しているし、生き抜くだけで厳しいというのもあるので、家族との支え合いや先祖のレガシーの継承というのが自分のアイデンティティを真面目に考える人にとってはどうしても重要になってくる。かなり世俗的なアミーラもエズラも、結婚となるとラビを呼ぶかイマームを呼ぶかとかいうようなことが気なってくるのはそのあたりに関係している。そうなると、「家族から逃れて自由になる選択肢もあるのでは?」というような内容が描きにくい。このあたりは最近のアメリカ映画ではかなり流行っており、『イン・ザ・ハイツ』も『ミラベルと魔法だらけの家』もそういう話だった。『ビッグ・シック』はそのあたりの描写がもっと洗練されていたと思うのだが、『ユー・ピープル』はけっこう両家の問題親が改心・発憤して当たり障りのない終わり方になっている気がする。