ドドピンクのヨットで世界一周、ぬいぐるみとデヴィッド・ボウイがお供~『トゥルー・スピリット』

 Netflixで『トゥルー・スピリット』を見た。オーストラリアで史上最年少のヨットによる世界一周を目指した実在の人物ジェシカ・ワトソンの回想に基づく映画である。

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 ディスレクシアを抱える16歳のジェシカ(ティーガン・クロフト)は、史上最年少でヨットによる世界一周をするという夢を持っていた。ジェシカはかつては有名だったが現在は挫折した船乗りであるベン(クリフ・カーティス)に指導を頼む。未成年のジェシカの世界一周計画については児童保護の観点からの批判が強く、さらにトライアルで衝突事故も起こるのだが、ジェシカはそれでも夢を諦めきれず、旅を決行する。

 本人の船旅が慣習的な意味での世界一周の基準を満たしているかはっきりしないらしいとか(距離とか通る地点とかについて慣習があるらしい)、そもそもこんな子どもにひとりで航海させるのは危険じゃないかとか、いろいろツッコむところはあるのだが、ディスレクシアの女の子が大きな夢を実現するというのはとても気持ちのいい話ではある。学習障害とか発達障害がある子にはとても勇気が出る話だ。途中でけっこういろいろな困難に遭うところも、海難映画としてメリハリのある描写になっている。

 しかしながら私が気になったのは、一見したところ子どもも見られる楽しい冒険映画っぽい作りなのに、なんかこの作品には妙にファンシーで細かいネタがいっぱい仕込まれているということである。何しろヒロインのジェシカのヨットは「ピンク」号で、文字通りドドピンクに塗ってある。最後に港に戻ってくるところでは地元の人たちがまっピンクの飾り付けでお迎えしており、色彩感覚が『キューティ・ブロンド』みたいだ。ぬいぐるみをいっぱい船室に飾ってピンクが大好き、か弱い子どもと思われているが実は強靱なジェシカは現代版のエル・ウッズと言えるかもしれない。

 さらに気になるのは、ジェシカの師匠であるベンの船は「ボウイ」号だということだ。ベンが「ボウイ」、ジェシカが「ピンク」とはこの師にしてこの弟子ありという感じだし、途中でボウイの「スターマン」がとても効果的に使われている。満点の星空の下、静かな海でカバー版の「スターマン」が使われるところはとくに幻想的で気合いの入った場面だし、絶体絶命の場面でジェシカがこの歌を口ずさむのも、ボウイの歌は常にこういう孤独なティーンエイジャーの友だったということを考えるとぐっとくる。そして個人的には、このかつてクルーを失ってしまってから心を閉ざしているらしい無骨なベン(役者さんはマオリ系)が船に「ボウイ」なんていう名前をつけているのは引っかかって仕方ない…というか、むしろベンの話を映画で見たいと思った。